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雷帝の後継者  作者: 森戸 玲有
第3章
22/56

8

 ――教えてしまって、良かったのだろうか……。


  彼らが去って行ったあと、リエルは自分なりに自分の行動を振り返ってみた。

  襲撃犯の黒幕の『あの方』に関する情報を、軽々に話してしまった。

  リエル自身は、ルフィア王子を襲撃したわけではない。

  ただ、年上の幼馴染みとロカの犯行だったということは知っていた。

  『あの方』から、直々に依頼を受けた幼馴染たちは、誇らしげにそれを語っていた。

  元々、ロカがこの村から出るお膳立てをしたのも、ルフィア王子と接触できるように手配したのも『あの方』だった。


 ――一体、王子に何があるのか?


  考えたけれど、さっぱり分からない。


(やっぱり、みんながよく話している、あの話に関係しているってことなのかな?)


  三千年前、天境王エンラがこの国の女王に嵌められ、負けてしまった戦いのせいで、自分達は人間界に置き去りにされ、三千年もの間、こんな小さな集落でひっそりと生きるしかなかった……という話。


(でも、だからといって、人間を襲ってもいいという理由にはならないよね……?)


  第一、恨み言なら現在の国王か王太子を狙うのが妥当だろう。

  どうして、第二王子のルフィアを標的にしたのか……。


(そもそも、『あの方』って何者なんだろう?)

 

  百年前、この集落が存亡の危機にあった時、救ってくれた恩人らしいが……。

  生まれていないリエルには、分からない。

  一時期、人間との混血化が増えた影響で、リエル達の寿命も短くなってしまったらしい。

  当時のことを知っている年寄りも死んでしまって、少なくなった。


(悪い方……ではないんだろうけど?)


  リエルは『あの方』の顔を、村長の裏庭にある水鏡を通して見たことがある。

  『あの方』は間接的な指示を出す時、そうすることが多いのだ。

  その物腰は、多少ぶっきらぼうな感じはしたものの、決して横柄ではなかった。


(天境王の側近の大物が考えていることは分からないなあ……)


  『あの方』の真意も不明だが、そんな物騒な指示に、理由も聞かず協力してしまった年上の幼馴染やロカの気持ちも謎だ。

  殺すなと、指示はあったとようだが、王子のすぐそばにいるロカだからこそ、ばれたらどうしようと、困惑もしたはずだ。

 一年前、ここを出て行く前まで、ロカにはよく遊んでもらった。

 リエルと同じくらい、小心者で臆病で、いつも苛められていたけれど、人一倍手先は器用で、意志も固かった。


(どんなことをしても、ロカ兄さんは、ここから出て、人の世界に触れたかったんだろうな……)


 だから、リエルの知っていることをすべて話してしまったことで、迷惑だけは掛けたくなかった。


「おい! リエル。どうして話しちまったんだよ?」


 幼馴染みが屋根の上で、寝転んでいたリエルに怒鳴り込んできた。

 文句が言いたくて、ずっとリエルを捜していたのだろう。

 リエルは、唇をつんと突きだして、彼の反対側を向いた。


「何だよ。「雷帝」の名前を聞いて、怖がって逃げたくせして、よく言うよ」

「あのなあ、ロカ兄の立場が悪くなったら、どうすんだよ? 今頃、殺されてるかもしれないんだぜ?」


 そんなはずはない。

 でも、ルフィア王子は、ロカの立場を悪くしたくないから、ロカに会うのは当分控えて欲しいと念を押された。

 王子はロカが襲撃犯の一味だと知っているということを、ロカに知られたくないと言っていたが、確かに幼馴染の懸念も理解はできる。


「でもさ、王子がその気なら、最初に僕達が殺されてるんじゃないのかな。それに、王子は随分前から、ロカ兄が犯人の一味だって知っていたみたいだし、なにも僕たちに確認取ってから殺す必要もないような気がするけど?」

「………………まあ、それも、そうだけどよ」

「とりあえず、言う通りにしてみるしかないんじゃないの? 大人たちだってそう言っていたじゃないか」

「あいつらの言うことを信用するのかよ?」

「赤髪に金色の瞳は、雷帝の証なんでしょ。あのお姉さんが雷帝なら、天虚としては、従わないと……。もしも、雷帝に逆らったら、それこそ大変なことになるって、大人たちが話していたよ」

「…………あんな小娘が、本当に雷帝なのか?」

「それは…………」 


 リエルたちは、あのお姉さんの力を見たわけではない。

 現時点では、ただ身軽なだけで、外見的特徴から、自分は雷帝だと名乗っただけだ。


(……でも)


 脳震盪で倒れた自分を、心の底から心配してくれた。

 あれは、演技ではなかったはずだ。

『あの方』も悪人ではなさそうだが、やっぱり、お姉さんの方が必死で、自信なさげで人間味があって、親近感がわいてくる。


(…………だから、まあ、いいんじゃないかな)


「大丈夫だと思うな。僕は……」

「はあっ?」

「…………お姉さん、可愛かったし」


「結局、そこかよ!」と、直後に突っ込まれたリエルだったが、素知らぬ顔で頬を緩めた。


お姉さんに、協力するのも悪くはない。

大人たちは保守的で、ここから外に行くことを勧めないけれど、リエルも外の世界に出たいとは思っていたのだ。


『あの方』に従うより、お姉さんの話に乗るほうが世界も広がりそうではないか……。

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