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雷帝の後継者  作者: 森戸 玲有
第3章
21/56

7

「すいません、ユラさん。もしかして、違ってましたか?」

「それは…………」


 ハルアの核心をつく一言に、ユラはすっかり動揺してしまった。

 結果、取り繕う暇も逸し、虚勢を張るほどの元気もなく、あっさりと認めてしまった。


「違わなくない……です」

「………………そうですか。それなら、いいのです」

「いや、よくないんですけどね。全然」

「私にとっては良いことなんですけどね。だって、君が力も強大で、尚且つ、完璧に力の制御もできて、それでいて、権謀術数に長けていて、手先も器用な大権力者だったら、私、取りつく島もないじゃないですか?」

「取りつく島って?」

「仲良くなりたいんです」

「誰と?」

「君とです」


 躊躇なくハルアに告げられて、ユラは面食らった。


「仲良くって、どんなふうにですか?」

「今までは、ひれ伏す感じで行こうかと思っていたんですが……」

「誰に?」

「君にです」


 …………ちょっと待ってほしい。

 ハルアがユラに、膝を折っている姿が想像つかない。

 頭を下げながら、何を企んでいるか分からないではないか?


「ハルア様は、私のことを馬鹿にしていませんか?」

「確かに、それは違うなって、たった今気づきました」

「……それなら、良かったです」

「もしかしたら、信仰の対象より、抱きしめたくなる対象なのかもしれません」


 一体、どうしたらこの変態の口は閉まるのだろうか? 


「やっぱり、ハルア様は私の悩みも他人事だと思っていますよね?」

「ええ。それは他人事ですよ。私はしょせん君にはなれません。でも、君にとって私の事情も、他人事じゃないですか。だから、それで良いと思うのです。主観だけで物を見る人より、客観的に物を見る人を傍に置いておくと、楽しいと思いますよ」

「本当に変な人ですよね……」


 ハルアが言うと、ユラの深刻な悩みも、些末なことのように思えてしまう。

 今のいままで怒っていたはずなのに、一瞥したハルアは大丈夫かと心配になるほど、屈託なく笑っていて、なんだか、それもどうでも良くなってしまった。

 そんなユラに、ひとしきり笑ったあとで、ハルアがふわりと言った。


「……君は本当に、魔物にしておいて良いのかってくらい、感情の分かりやすい人ですね」

「どういう意味ですか?」

「私ばっかり、君のことを知っているのは公平ではないので、だったら、秘密の共有とまではいかないかもしれませんが、私の能力のことも、少し君にお話ししておこうと思ったんです」

「ハルア様のこと……ですか? 芸術方面以外で?」

「再三言っていますが、芸術は私の才能じゃありません。ただ目的のためにやっているだけのことですから……」


 多分、売れない同業者が耳にしたら、彼は闇討ちされるだろう。

 ハルアに敵が多い理由が分かるような気がした。


「……私には生まれつき、変わった能力があるんです。もちろん、君には劣りますけどね。だから、私は君の弱点にもすぐ気づくことが出来ましたし、父上の真意も、兄の横暴も、ロカ君の気持ちの揺れも……。分かってしまうんです。ユラさんも、さっき、父上と私の会話を聞いて、何を暗号めいたやりとりをかわしているんだ。腐れ親子が……て思ったでしょう」

「そこまで、思っちゃいませんよ!」

「ははっ。そこまで……というところが実に素直で良いですね。まっ、ともかく、私はなぜか、人とか、魔物とか……生き物の感情を読む力があるみたいなんです」

「…………はっ?」

「嘘に聞こえますか?」

「いや、さすがに、それは……」


 嘘ではない。

 数々の彼の不可解な言動の答えはそこにあって、先ほどの国王との会話もそういう意味を含んでいたのだ。


「…………つまり、ハルア様は「心」が読めてしまうってことですか?」

「まさか……。その人の考えを全部読むことが出来たのなら、私は世界征服をしているか、おかしくなっているか、いずれかでしょう。ただ感情が伝わってくるだけなんです」

「感情……?」


 天境界にもいろんな能力を持つ天虚がいるが、感情に訴えかける能力に関しては聞いたことがなかった。

 ――未知の能力だ。


「何となくの世界なんです。今、ユラさんが驚いているな……とか、ラトナが呆れているな……とか。その程度のものなんです。普通に生きているだけなら、少しばかり勘が鋭いというだけで通用したかもしれません。でも、王宮で生きるには、こんな力、足枷以外の何物でもありませんでした。知りたくないことばかり、知ってしまいますからね」

「ハルア様。……すいません。私、何も知らずに、貴方がただの変態かもしれないって」

「ああ、それは大丈夫です。本当のことですから」


 あっさり肯定されてしまい、ユラは戸惑った。

 彼自身、変態という自覚はあるらしい。


「……だからね。ユラさん。今まで、何で行動を起こさなかったのかと、君は私に言いましたが、ロカ君の後ろに黒幕がいると思ったので、動きたくなかったのです。私が気づかなければ、その黒幕も手荒な真似をしてこないだろうという、そういう確信はあったので……」

「その黒幕っていうのは、一体、誰なんですか?」

「それは分かりません。元々面識もありませんから、特定することも難しい。悲しいほどにくだらない能力しか私にはないんです。……でも、ロカ君の親族に会って話せば、それも明らかになるでしょう」


 ユラは、脳内で一つの仮説を作り上げていた。

 ロカと黒幕、天境界が関係しているのなら、『返せ』と言われていたものを、いまだにハルアが所持しているということだ。


 ――そして、ハルアには特殊な能力があるらしい。


「ハルア様。その力は異世界に行った後に、身に着いたものなんですか?」

「…………えーっと、そうですね。そうかも……しれませんね……」

「……てことは、天境界でハルア様の身に何かあったということですよね?」

「でも、私、本当に、そちらの鬱蒼とした森で小さな赤い実を食べたくらいで、他に特殊なことなんて何もしていないのですよ」

「食べたんですか?」

「……ええ。食べましたね。最強に不味い実でした」

「ハルア様。小さな赤い実って言いましたよね?」

「……言いました……けど?」 


 ユラが知っている限り、天境界の赤い実といえば、大きな果物ばかりだ。

 少なくとも、雷城周辺に小さな実が生る木は存在していない。

 しかし、最近「赤い実」について、聞いたことがあったはずだ。


(……あれは、確か?)


「…………ん?」


 リエルが目を擦りながら、起き上がった。


「リエル君!」


 ユラは、彼の小さな肩を興奮のままに、がっしりと掴む。


「「あの方」について、教えて下さい。お願いします!」



(まさか……とは思うけど?)


 もしも、脳裏に過った想像が真実だとしたら、とても恐ろしいことだ。



 ――――しかし、現実は無慈悲なまでに、ユラを混迷へと導くのだった。

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