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序章
―――その男は、ハルアに言った。
「君が大人になった頃、この世界も君の世界も揺れるかもしれないな」
――と。
ならば、いっそこの世界に置いて欲しいと言ったハルアを、男は嘲笑った。
「君には、君の役目があるじゃないか……」
――自分の役目なんて。
そんなものは分からない。そんなもの知らずに人は死んでいくものなんじゃないのか?
「――じゃあ、せめて、もう一度、会うことは叶いませんか?」
子供であることを利用して、ハルアは男に強請った。
けれども、男はハルアの髪を撫でただけで、同じ熱を持って返してはくれなかった。
「君はあれを美しいと言った。才能があるんだろうよ。綺麗なものを描き続けなさい。そうすれば、きっと……」
――きっと……。
その言葉ほど、不確かなものはないだろう。
それでも、その一言がハルアの希望だった。
閉塞した世界を打ち砕く、圧倒的な光そのものだった。