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プロローグ

0.


燃え盛る炎

素肌を焼くような熱風

木がはじける音───


その中で聞こえる、あなたの声、


『目隠しをしよう、×××。×××の記憶も、痛みも、全部俺が、貰っていくから。だから……』


そして私の心に囁きかける、君の声、


『力が欲しいか?あいつらに"復讐"する力が。』


私は、君と約束をしたね。


『力をやる代わりに、お前は俺に何を捧げる?』


『私は……、私は貴方を───────』





1.


「───なあ、落ち着いて、考え直したほうがいいんじゃねーの?」


夜明け前、まだ薄暗い時刻、ある城の一室。


「いいえ、私はもう決めたんです。15の誕生日を迎えた日に、この城から出ていくと。前から貴方には言っておいたじゃないですか。」


一人の少女がランプの薄い光の下せっせと鞄に荷物を詰めていた。

着替え、下着、本、ペン、それと少しのお金と飴玉。


「そりゃあそうだけどさ、まさか本気だとは思わねーって。まだ十年ちょっとしか生きてねーようなガキが家出するなんか行ったところで、タチの悪い冗談にしか聞こえねぇよ。」


少女の後ろから話しかける青年は、呆れたように言った。


「冗談なんか言いません!私は本気です!こんな城、もう帰ってきたくない。私は旅に出て、絶対立派なトレジャーハンターになってみせます!」


少女は荷物でパンパンになった鞄を肩に担ぎ、部屋の窓を開けた。

太陽が山の向こうから昇ってきていた。もうすぐ、夜が明ける。


「ついて来てくれますよね、"フレア"?」


少女が振り返ってみた部屋の中、入り口近くに立っていた《青年》は、にやりと笑って言った。


「あたりめーだろ、お前は俺の《契約者》だからな、"レイナ"。」


レイナと呼ばれた少女はにっこり笑うと、窓の縁に足をかけた。


「さあ、行きましょうフレア!」


少女と青年は、勢いよく、眼下に広がる世界へと飛び出した。





2.


「なあ、知ってるか?メリウスの姫の話。」


「ああ、三年前の15歳の誕生日の日に姿を消したっていう、あの姫か?」


「そうそう。実は最近聞いたんだけど、その姫、なんと《悪魔と契約してた》って噂だぜ。」


「まじか…!家出したとか聞いたけど、そのせいで城の奴らに追い出されたとか?」


「わかんねーけど…、ま、なんにしろ《いわくつきの姫》ってことだけは間違いねーな。」


「ああ恐ろしい……。」


「それともう一つ、その姫がいまこの街に来てるんじゃねーかって噂だぜ?」


「《マラカ》に?ほんとかよ。もしそうなら、一目でいいから見てみたいな、《悪魔の姫》の姿。」
















商人の街、《マラカ》。

あらゆる商品の流通網がここに集結しており、この街にくれば揃わないものはないとされる。


そんなマラカの街の中心部、ひときわ沢山の店が立ち並ぶ”オスクロバザール”、通称『盲目通り』。

あまりに店と人が多く、通り抜ける間に感覚がマヒし、気付けば不要なものまで買ってしまっている、という人々の体験から名付けられたバザールだ。


そんなバザールの中を、人をかき分け、商売節を効かせてくる者を振り払いながら進んでいく少女がいた。


「お嬢ちゃん、このフルーツはいらんかね?お肌にいいよ!」


「そこの娘さん、ストールはいかが?この先の砂海を越えるんだったら日差し除けのストールは大事だよ?」


「ごめんなさい!私急いでるので!ちょ、あの、すいません!通してください!」


小柄な少女は人と人との間を潜り抜け、ようやくバザールの出口へとたどり着いた。


「ぶはぁ……、し、死ぬかと思った……!」


白いフード付きの服に、ダークグリーンのショートパンツ、茶色いブーツと腰に小さなバッグを二つ付け、両手には黒い手袋をはめた、黒髪の小柄な少女は、服の砂埃を叩き落しながら息を吐いた。


「流石、盲目通りという名が付くだけあります。皆狂ったように買い物してました……。危うく潰されるところでしたよ。」


少女はふう、と息を吐くと、人目を避けながら近くの路地裏に入った。

辺りを見渡し、誰もいないことを確認した少女は、するりと右手の手袋を外した。


その瞬間、少女の右手から激しい炎が上がり、それは徐々に人の形を成していった。


「ったくよぉ、だーから俺は遠回りでもいいから外周を回ってここまで来いって言ったんだ!お前ちびなんだからこうなることぐらい目に見えてるっつーの。」


炎の中から現れたのは、紺色のローブを身に纏い、体中に紋様のようなものが描かれている、銀髪、碧眼の青年だった。


「だって、この街に来たら一度でいいからオスクロバザールを通ってみたかったんです。それがまさかこんなに人が多いとは……。街に入ったときはそんなに人いなかったのに。あそこだけ人口密度高すぎですよ。」


「お前、ここに来る前に聞いた話、覚えてなかったのかよ。『あのバザールに入ったら最後、財布が空になるか、人に押され、潰され、二度と出てこられなくなるかだ……』って、道で会ったおっさんがいってたじゃねーか。」


「だって~……。」


青年は呆れたように溜息を吐くと、一瞬にして姿形を黒い犬に変えた。


「ほら、いくぞ。目的の遺跡はこの先だ。ほかの奴らに宝を取られてもいいのか?」


「あっ、そうだった!待ってくださいよ”フレア”!」


少女は慌てて手袋をはめなおすと、黒犬、フレアの後を追って走っていった。









「─────おい、あのガキ……。」


「ああ、間違いねぇ、あいつこそ、《悪魔の姫》………!」













「…………暑い……!」


マラカを出た二人が歩いているのは広大な砂海だった。

地平線が陽炎によって揺らめく、砂と岩だけの世界。

時折吹き付ける熱風によって、少女の歩いた足跡はすぐにかき消えてしまった。


「暑いの承知で来たんだろ。我慢しろ。」


少女の少し前を、フレアは暑さなど関係ないかのように歩いていく。


「そりゃ、そうですけど……、そうですけど~…。」


少女は、はあ、とため息をつくと、目の前を歩いているフレアの尻尾を追った。









永遠に続くかと思われた砂海。


しかし、そんな中に遺跡は突然姿を現した。

何もない砂海の中、ほぼ岩山と化し、朽ちた遺跡。

その遺跡の入り口だけが、まるで獲物を待ち構える怪物のように、暗い闇を携えて開いていた。


「やっと着きました!長かった……、干からびるかと思った……!」


少女とフレアは、そんな遺跡の入り口の目の前に来ていた。


「こんなところに本当にあるのかよ。幻の花の一つ、《水晶の花》。水があるのかさえ怪しいってのに。」


フレアはブルブルっと体を震わせ、砂を落とすと、黒犬の姿から、再び人間の姿へと変わった。


「こういうところだから生えてるんですよ!そんなそこらへんに生えてたら全然伝説でもなんでもないでしょう?」


そう言うと少女は、背負っていたリュックサックから街で買った松明を取り出すと、フレアのほうへ向け言った。


「さ、こんなところで油を売ってないで行きましょう!他の人に取られちゃったなんていったらここまで歩いてきた努力が水の泡ですからね!」


「さっきまでバテバテだった奴が何を言うか。」


フレアはそう呟くと、松明に向かってフッと息を吐いた。その瞬間勢いよく松明が燃え出した。


「さあ、出発進行!です!」


二人は暗い口をける遺跡の中に意気揚々と足を踏み入れた。



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