9.モルカ台地――2
「ん……?」
「うーん……」
「言われてみれば……」
リーネの指摘にヘルプを眺めてみると、確かに僅かながら透けて見える。
ただ、元からそんな感じだったと言われれば納得できそうな程度だ。
仮に今になってヘルプの姿が薄れてきているとしたら……関連付けて考えられる要素が一つある。
確証は無いし、一つ鎌をかけて――。
「ビギナーズラックの期限の影響だね?」
『……今からどうにかなる問題でもありませんし、誤魔化す必要もないですね』
一足早くシャロがそう言うと、ヘルプはすっと前に出た。
『元より僅かな情報も全部伝え終わりましたし、敗者が去るには頃合いです。有体に言ってしまえば用済みなんですよ』
「最近口数が少なかったのもその為か」
『はい。ほら、早くビギナーズラックも使っちゃってください』
「私は……いや、です」
『?』
いよいよ期限が迫っているのだろうか。
なんでもないように笑うヘルプの身体はさっきより透けているように見える。
その言葉に誰より早く異を唱えたのはリーネだった。
「用済みとか、そういう問題じゃないんです。いきなりの事で何も分からなかった私を最初に助けてくれたあなたに、消えてほしくないんです」
「そうだな。リーネが望むなら、お前は消えるべきでない」
「ユイハ……いや、別に良いけどよ。まあ確かに寝覚めは悪いな」
「そうだねー」
『でも、そもそもこんな事態を招いた罪は――』
「お前が消えて誰が喜ぶのかは知らんが。少なくともリーネは悲しむし、そうなったらユイハも良い気はしないだろう。俺だってそうだ」
「ボクもね」
『っ……でも、手段は? 寿命とほぼ変わらない問題なんですよ』
「ビギナーズラック。詳しいところは分かんねぇが、幸い温存し過ぎたせいで四人とも三回分残ってる」
ヘルプが消えそうなのと連動してるようだし、何かできる可能性はあるだろう。
それにフレンドコールの機能拡張の一件で、このスキルを重ねて効果を高めることができるのも分かってる。
それを言うと、ヘルプは少し考える様子を見せた。
『それなら……可能性は、あるかもしれません。ですが、あくまで可能性です。正直に言って何が起こるか想像もつかないくらいです』
「構わないです」
リーネの即答。
……まあ、俺としても話に乗った身だ。多少のリスクは甘んじて受けよう。
何が起きても即座にエルピスに乗れるよう、密かに身構える。
『では……皆さん、同時にスキルを発動してください。タイミングはそこまで厳密に合わせなくて大丈夫です』
「分かった」
「「「せーのっ!」」」
ビギナーズラックを発動。
ほとんど同じタイミングで俺たち四人の前に光球が浮かび上がり、その眩さに目を閉じる。
やがて、瞼越しに光が弱まったのを感じて目を開けると……。
そこに立っていたのは、今までの姿に分裂する前の美形。
相違点といえば真珠色をしていた髪が普通の銀髪になっていることくらいだろうか。
「……ヘルプ、さん?」
「少しお待ちを」
リーネを片手で制し、ヘルプと思しき美形は明後日の方向に視線を向ける。
いや、よく見ればこちらに向かってくる影がオークの群れらしいことが分かった。
あちらはまだ俺たちに気付いてない感じだが……さっき戦った群れより少し規模が大きい。
「とりあえず場所を移すか?」
「いえ。少し、試させてください」
「……へえ、面白そうだな」
「もちろん一人で殲滅とかは無理ですよ?」
「あ、そうなのか」
じゃあ俺も戦闘準備しとかないとな。
エルピスに跨ると、敵の姿がよりはっきりと見えるようになる。
……あれ? ハイオークの割合多くないか?
「それじゃあさ、キミのステータスも『暴露』させてよ」
「構いませんよ」
「それじゃ遠慮なく……えい!」
名前:レム
クラス:ベラータ
Lv.12
「ベラータ?」
「助言者ですか。確かにヘルプ……いえ、レムさんらしいですね」
「それがヘルプの元の名前ってこと?」
「いえ、ランダムに決まったものですね。……皆さんが最初自分の名前に違和感を覚えていた気持ちが分かりました」
「そろそろだな。そのレベルならレムも乗るか?」
「いや、私がフォローに入る」
うーん……エルピスの体力を考えれば問題ないが、乗せると俺が動きにくくなるし任せるか。
全然安心できないからって言ってやりたいとこだが、からかって突撃のタイミング逃すのもマズいしな。
まあシャロとうまく連携が出来れば平気だろう。
「よし、行くぞ!」
「は、はいっ」
「クエー!」
馬上剣を構え、俺は先陣を切ってオークの群れに突っ込んだ。