6.廃墟――4
「そういえば、お前らはこれからどうするつもりなんだ?」
「ん、これからって?」
「なんて言や良いかな……『世界征服してやるぜ!』とか、『恵まれぬ子供たちに救いの手を』みたいなって言えば伝わるか?」
「伝わったが、そう言うお前には何かあるのか?」
愚問だな。
初めてエルピスに乗った時から、そんなのは決まってる。
「片っ端から魔物に乗って、旅して魔物探して、また乗る! これに尽きるな」
「単純だな【ライドマスター】」
「今の俺は最早そういう生き物なんだよ。で、お前はどうなんだ?」
「……とりあえず、強くなりたいな」
「はい次ー」
「おい!」
ユイハが噛みついてくるが無視。
これといった目的が無いことは分かったから。
それ以上語りたいことがあるなら多少付き合っても良いが……無いだろ。
「ボクは『看破』するのが楽しいからねー。色んなところを旅するんなら、リュートについて行っても良いかな」
「お前って……【義賊見習い】だよな?」
「そうだけど?」
ごく自然に頷かれる。
どっちかって言うと旅人みたいな考え方だな。
まあ義賊らしさって言われても俺も分からんし、別に良いか。
クラス通りに生きないといけないなんてルールも無いしな。
「じゃあ最後はリーネだな」
ある意味で一番のキーパーソンだ。
これまでより少し注意深く耳を傾ける。
「えっと……私は、信頼できる人を見つけて、そのサポートに回りたいです。一人じゃ大したことはできませんから」
「そうなのか」
やや意外ではあったが、確かに自然な帰結だった。
クラスからして後衛向きだし、ソロでやっていくのは厳しいだろう。
「私を……支えてくれないか。一生」
「百合ならよそでやれ」
無駄に凛々しく決めたユイハの頭をはたく。
一瞬リーネが超怯えた顔したぞ。
「お前のツッコミは求めていない」
「奇遇だな。俺もお前のボケなんぞ求めちゃいない」
少し睨み合うと、俺とユイハは同時に視線を逸らす。
リーネとシャロが小さく笑みを零した気がするが、勘違いだろう。
今日は少し足を伸ばして、西にそびえる山の麓まで行ってみた。
ドラゴンっぽいシルエットが高空を飛んでたのが印象的だったな。
……いつか絶対に乗ってやる。
町からエルピスで日帰りの効く範囲だと、強いところで魔物の平均レベルは20くらい。
巨大鼠そのものの「ビッグラット」。
すばしっこい「蹴殺ウサギ」。
人型っぽかったし一応対話を試みたのだが問答無用で殺りに来た「レッサーゴブリン」。
そこまで乗りたい奴はいなかったな。
どれもとりあえず馬上剣で一撃だった。
「エルピスはレベル19になったが、お前らはどうだ?」
「私は25です」
「20だよ」
「……20だ」
「へぇ、やっぱ直接戦った奴の方が伸びは良いんだな」
「ぐ……次は私が戦う、こうはいかんぞ!」
「あーはいはい、まぁ頑張れよー」
「コイツは……!」
なんかユイハの背後で炎が燃えてる気がするが、知ったこっちゃないな。
レベルの高い狩場を使ったおかげか収入もそれなり。
当分は普通に宿で寝泊まりできるだろう。
「ところで陽、沈んだけど……合図ってどんなのなんだろうね?」
「気になりますね~」
食事を終えた俺たちは建物の上に登って合図があると思われる方向を眺めていた。
「というかお前、その鳥に――」
「エルピスだ」
「……エルピスに乗ってばかりだな。足腰が退化してしまえ」
「むぅ……」
いや、人騎一体とか言うように常に乗って意思疎通を密にすることって大事だと思うんだ。
が、足が退化するのは困る。
エルピスが俺の足だから良いんだ! とは、どうも割り切れないらしい。
まあ……文字通りどこでもエルピスと一緒って訳にもいかないしな。屋内とか。
「クエ!」
俺が言葉に詰まっていると、エルピスが声を上げて空を示した。
地上から打ち上げられた火の球が夜空に打ち上がる。
「花火みたいにはならないか」
「そりゃまだ無理だろ。いきなりどんだけ尖ったクラスになってんだよ」
「はなび?」
「……?」
あれ、シャロとリーネには通じてないのか?
意外な知識の差異だな。
「……なんでお前とだけ話が通じるんだ」
「知るかよ。俺を睨むな」
さておき、俺たちはエルピスに乗って集合場所へ駆けつけたのだった。