5.廃墟――3
「行くぞエルピス!」
「クエー!」
テイムしたシュトルーに乗った俺は、すれ違いざまに馬上剣を一閃。
グラスボアとかいう猪を両断する。
ドッと倒れた猪の傍に落ちた貨幣はすぐ蒸発するが、これが勝手に財布に入ってると思うと……。
もし俺が死んだら幾ら落ちるんだろうか、と考えてしまう。
効果音と共にエルピスのレベルが8に上がった。
「陽も沈みそうだし、そろそろ帰るか?」
「そうだな。頃合いではあるだろう」
なお、アイテムボックスに入れたものは時間が止まるため食糧でも半永久的に保存できるそうだ。
ちなみに適当な野草も採取済みだ。
「看破」と「暴露」、重要なスキルを持った二人と行動できるのは幸運と言う他ない。
それにしても、四人も乗せて平気で走れるエルピスは凄いな。
あっという間に町へ着いた。
それで夕食を無事に済ませたのは良いが……。
「お前ら、所持金いくらだ?」
「二十一円です」
「三円だ」
「ゼロ!」
「……野宿決定だな。ちなみに俺の残金は百二十円だ」
『あ、街の外はお勧めしませんよー』
「分かってる」
宿泊代が一人一泊で千円ってのは現実的に考えて破格だと思うが、それでも足りない。
今回の収穫を換金して、そこから食費を引いたのが現在の残金。
これは、もっと強い魔物を狩らないと金欠待ったなしだ。
辛うじて収支が釣り合ったのも、エルピスがその辺の草で満足してくれたおかげだし。
俺たちが向かったのは、最初に集まった広間のある廃墟。
ボロボロだが他にも一泊できそうな建物はある。
「ぅおっ!?」
「あ、失礼」
同じような考えの人は他にもいたらしい。
今夜はその中でも比較的状態の良い一つに入って過ごすことにした。
低位魔法適正とかいうスキルを持ってるリーネが洗った猪皮が布団代わりだ。
量はそれなりにあるから、特に大きな問題は無いだろう。
「ふぅ。疲れたし、今日はもう寝ようか」
「布団も乾いてますよー」
「風魔法お疲れ。まあ俺はエルピスに埋もれて寝るんだけどな」
「む……役得か卑怯者め」
「お前には猪皮がお似合いだよ」
誰が卑怯者だ誰が。
ユイハをシッシッと手を振って追い払うと、俺は番犬っぽく入口に伏せているエルピスに飛び込んだ。
「此処に人はいるかー?」
「クエ?」
「って、魔物!?」
外から呼びかけてくる大声に目が覚めた。
泡を食って逃げ出そうとする男をエルピスに乗って追いかけ捕まえる。
「く、くそ! 放せ――」
「まあ落ち着けって」
「あ、え……人?」
パリスと名乗ったその男が話すところによると、以前広間に集められた人間たちで一度話し合う機会を持つために集合するのだという。
場所はリーネたちと会った広間で、時刻は日没後に合図するらしい。
何気に初となるフレンド登録を交わすと、とりあえず俺は寝ていた建物跡に戻った。
「――ってことがあったんだが。あとエルピス、フレンド登録しとこうぜ」
「クエ!」
エルピスが片羽を挙げて応えると、フレンドリストの魔物枠にエルピスが登録された。
「お前は私たちより先に鳥とフレンド登録するのか」
寝起き特有のぼんやりした様子ながらも、ユイハが呆れたように呟く。
「エルピスはたぶん断らないだろ? お前らも交換しとくか?」
「まあ……良いだろう。お前は正直どうでも良いが、リーネと行動できるのは心強いからな」
「え……ええ?」
不意打ち気味に持ち上げられたリーネが目を泳がせる。
「いや……そうだ、リーネ。こんな男は放って私と組まないか?」
「おい」
「まあまあ。今は皆で動いてる方が安心だよ」
「む……それも一理あるか」
何勝手に引き抜こうとしてんだよ。
ともかく、シャロが間に入ってユイハは引き下がる。
やがて全員のフレンド登録が終わった。