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42.モルカ台地――20

アバドン(魔王)が、リュートさんの中に……」

「ああ。だがこの感じだと、たぶん心配はいらないだろう」

「どういう事だ? 分かるように話せ!」

「そう急かさなくても、俺もそのつもりだって。先に重要度の高そうな結論を持ってきただけだ」


 いつも通り血圧の高そうなユイハを軽く制する。

 顔を見れば心配してくれてるのは分かるんだが、もう少し言い方とかさ……まぁいい、本題に移るか。


「まずは今回戦った群れ……アバドン片体(フラグム)蟻獅子(ミルメコレオ)、それと最後に出てきたアバドンの正体だな。元は山脈の向こう側(魔界)でこっ酷くやられた中堅魔王のアバドン。片体はそれが衰弱して生命維持のため分裂したもので、蟻獅子は言っちまえば抜け毛みたいなおまけの類だ」

「だとするとー、今回戦ってたのは実質手負いの魔王一個体だったって事になるのかな?」


 シャロの確認に頷いて答える。

 ある意味アスラの時と似たような状況だったわけだ。

 もっとも、アスラ(アストラ)とは全く異なるタイプの魔王だったから単純に比較する事はできないが……仮にあの時アスラと戦う道を選んでいたら、同じ規模の戦いになったのだろうか?

 ……いや、ないな。

 感傷と言えばそれまでだが、アスラがどんな状態だったとしても、殺すという選択肢は俺の中に無い。


「アバドンの見通しでは、生きてこっち(、、、)に来れれば後は一度力を見せつけて傷を癒すことに専念するつもりだったらしい。その力を見せつけようとした結果がアレだが」

「ま、どっちかっていうとボクらの力を見せる形になったかもねー」

「それでアバドンの現状だ。コイツは自分の意思で俺の中に潜んでるんだし、封印なんかと違っていつでも出てこれるらしい」

「「「っ!」」」

「あー、だから最初に言ったろ? たぶん大丈夫だって。言い方はなんだが、コイツかなりビビってる。仮に不意を突いて復活して、俺たちの数人をどうにかしたとしても、そのあと生き残れるビジョンが無いらしい」

「……えー…………」

「まぁ、そう言いたい気持ちは俺も分かるけど。こっちから言う事としてはこれで全部かな」


 そう言って話を締める。

 シャロが微妙な表情をしているが、確かにあれだけの戦いを引き起こした元凶がこんなんじゃその反応も当然だろう。

 ……と、レムが懸念するような声を上げた。


「――最初にお話したように、魔王は()の世界から様々な負の要素を生き物として固定化、隔離したものです。いくら本人に危害を為す気がないからと、それをそのような形で傍に置くのは……」

「それも一理あるけどな。どんな災難を引き寄せるとしても、俺にアスラと離れる気は無ぇぞ。アバドンはともかく」

「…………!」

「それにコイツだって最優先なのは自分が生き残ることだし、大人しくするってのもその為だ。これ以上を望むっていうなら捨て身でも暴れるだろうよ」

「……それも、そうですね。今言ったことは、少し気に留めておくくらいでいいです」

『あ、あの……!』


 レムが引き下がったあと、少し周りの様子を見た後にリーネが言葉を発した。


『これは単純に興味からなんですけど。その……アバドンの意思は、リュートさんにどういう形で伝わっているんですか? アスラさんみたいに念話(フレンドコール)が繋がっているんでしょうか?』

「んー……微妙なところだ。確かにそれが一番近いんだが……コイツと俺たちじゃ言語が違う。記憶とか、感情とか……念話みたいに伝わってくるそれを、俺が翻訳してる形になるな」

「なんだ、魔界の具体的な情報を聞き出す事は出来んのか」

「そう、だな……ぼんやりしたイメージみたいなのは分かるんだが、はっきりしない」

「まあ、今の情報が分かっただけでも収穫だと思うよ」


 これで俺とアバドンについての疑惑は大体解消されたと見ていいか。

 俺自身、伝えるべき情報は全部出した。


「それじゃ、次は俺の方から今の状況について聞きたいんだが」

『確か、本部との連絡はシャロさんがしてたんでしたっけ?』


 なんとなく視線が小柄な【義賊】に集まる。


「あー……うん。そうだね」


 シャロは、どこか気まずそうな表情で口を開いた。


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