41.モルカ台地――19
……夢を、見ているのだろうか?
最初はそう思ったが、どこか違和感がある。何かよく分からない異物が侵入してくるような感じだ。
同時に流れ込んでくる情報は言語として認識できないが、どこか言い訳めいた印象を帯びていた。
やがて映像がにじむように意識が霞み――。
「っ……」
「リュート!?」
「主!」
小さく呻いて身体を起こすと、シャロとアスラが勢いよく振り返った。
ここは……テントの中か。確かこれは、本部から支給された隠蔽効果のある一品だったはず。
そんな事をぼんやりと考えていると、俺に駆け寄ろうとしたアスラをシャロがさりげなく制した。
確か俺は……。
いつの間にか痛みが消えている事に気づき、魔物化していたはずの腕を確認する。そこにあったのは見慣れた人間の腕。
――そこでようやく頭がマトモに回り始めた。思い出すのはアスラたちと戦うアバドンの内側にいた記憶。そして、最後に俺の外側にあった力が内側に流れ込んでくる感覚。
というか俺は戦いの途中に何回倒れてるんだよ!
自分の不甲斐なさに思わず天を仰ぐと同時、今の二人の反応についても正確に理解する。
「あー……二人とも。迷惑かけたな」
「……意識ははっきりしてるって事でいいのかな?」
「多分そうな――ん?」
「あれ、どうかした?」
「声が……俺、いま普通に喋ってないか?」
違和感に気付くのに少しの間を要した。
いつもの念話ではなく、喉から、口から声が出ている。
ノイズだって混ざっていない。
それだけの事が感慨深くて、思わず噛み締めるように呟いて確認する。
「アスラじゃないけど、レベルが上がって呪いを抑えられるようになったのかもねー。ボクはとりあえず皆を呼んでくるよ」
「っ……お、おう」
なんだ?
シャロの何気ない言葉にギクリと動揺し、そんな自分を不審に思う。
少し考えて原因に思い至ったが、そのタイミングでシャロが戻ってきた。
ユイハ、リーネ、レム、エルピスと順番に入ってくる……エルピス? 少し、いや結構縮んでないか?
「それで……どう? リーネ、レム」
「見る限り、特に不審な点はありませんね」
『奥の方に、何か……? でも引き籠っているというか、隔絶されている感じです』
「それなら俺の方から説明する。ただ……」
経緯を考えれば俺がきちんと意識を保てているか疑われるのは仕方ない。今こうして命があるだけでも良い方だってのは自分でも分かってる。
とはいえ……どうしても視線が吸い寄せられるのは手乗りサイズのエルピス。
「ああ、エルピス? レベルが上がった恩恵で、自由に縮めるようになったんだって」
「そ、そうなのか」
一目見たときから乗れないじゃねぇか! とは思っていたが、今のエルピスには仮にそうだったとしてもプラスマイナスがプラスに傾くだけのマスコット的な愛らしさがある。
自由に縮めるって事はちゃんと元の大きさにも戻れるみたいだし、何の問題もないな。
発揮できる力もあまり変わらないとのこと。コンパクトになったことで得られる隠密性とか携帯性を考えれば、実利的にも大きなメリットがある。
好奇心も満たされたところで説明といくか。
「さて。最初に言うと、そうだな……リーネが視た通りだ。アバドンは俺の中に潜んでいる」




