4.ガジ平原
……それより。
魔王サタンのステータスを見て思い出した事があった。
「おいヘルプ」
『な、なんでございましょう?』
「最初に言ってた、色々マズい要素ってのについて詳しく聞かせてもらおうか」
「なんだ、そんな物があるのか」
「……凄く嫌な予感がするのですが」
ヘルプはひとしきり渋ったが、四人のジト目に囲まれて観念する。
それは今の人類じゃ太刀打ちできないレベルの強力・凶悪な魔物たちの存在。
そしてその更に上を行く魔王という種族。
『――で、でも対処する手段も作ったんですよ? 人間でもいずれ魔物に立ち向かえるようにレベルの概念を授けたり、魔王たちの行動圏から遠ざけたり!』
「「「ふーん」」」
『うう……』
「それで、その魔王たちはどう行動してるんだ?」
『テリトリーの重なる他の魔王たちと争っていると思われます』
「最終的には蠱毒の原理で更に成長した大魔王に合流すると」
『そ……そうなります……』
暗いな俺たちの未来。
まぁヘルプ――いや、元神だって全能じゃない中で頑張ったんだ。
これ以上苛めるのも酷ってものだろう。
「結局、俺たちは何したら良いんだ?」
『好きにしてくださって結構ですよ? 強いて言うなら、幸せに生きてください』
「ちょっと良いこと言うんじゃねぇ」
地味に好感度上がりそうになるじゃねぇか。
そして幸せに生きる為には魔王も何とかする必要があるわけで、ついでにハードルも上がる。
「……そうだな、少し魔物ってやつを拝んでみるか」
「なに?」
「どうせ町の外に出りゃうろついてんだろ。最初はリーネの能力で遠くから観察して、襲われるようなら俺が前に出る。最悪ビギナーズラック使えばヤバい事にはならないハズだ」
「……よくもまあスラスラと出てくるな」
「そりゃどーも。じゃあ異論も無いみたいだし、行ってみるか」
町を出ると、例によって視界が暗転した。
フィールドマップに出たってところか。
「いるねー」
「思いっきり敵意向けられてるな」
僅か数メートルの距離からこちらを睨んでいたのは、フッサフサの白ダチョウと言うか……俺の知識で率直に表現するなら、白チョ○ボだった。
大きさは軽トラックくらい。
「レベル2のシュトルーって魔物だそうです」
「それならいける、のか?」
「なんだ、ビビっているのかレベル31」
「冗談だろ魔王サタン」
「貴様まだ言うか……!」
俺が前に出るのとほぼ同時、シュトルーが突っ込んできた。
迫力はあるが、そんなに速くは……無、い……?
距離が縮まるに連れ、俺の中に謎の衝動が湧き起こった。
――乗りたい。
「おい、リュート!」
「リュートさん!?」
俺もシュトルーの突進に合わせるように駆け出すと、交錯の瞬間紙一重で回り込み、馬乗りになるとその首にライダーベルトを装着する。
ピタリと突進を止めたシュトルーは興奮したように息を荒げていたが、背中を撫でる内に大人しくなった。
同時に俺自身も、何か根本的なものが満たされるのを感じる。
力強い鼓動、高い体温、柔らかな羽毛……その全てが心地良い。
――シュトルーのテイムに成功しました!
そんなメッセージが脳内を流れた。
「……テイム成功だってさ」
「……そうか」
「確かに、なんだか雰囲気が変わりました」
「そういえばちょっと気になったんだけど、ボクたちって何を食べれば良いんだろ? やっぱり魔物?」
シャロ、どうしてこのタイミングでそんなことを考えた?
コイツは食わせんぞ!
『魔物の死体は二次変化しない場合すぐ星に還るので、剥ぎ取りは急いだ方が良いですよ。あと食事なら最初は適当な町で済ませるのが良いかと』
「まだ色々と余裕はあるし、もう少し回ってみるか?」
「剣まで取り出して殺る気満々だな」
「あ、ボク短剣持ってるから剥ぎ取りできるよ!」
「私も、ナイフがあります……」
自分もやった事とはいえ、目の前の少女たちが普通に刃物を取り出す様子には少し違和感。まあすぐに慣れるだろうが。
それにしても、どうも俺を含めて狩りとか剥ぎ取りに拒否感ある奴はいないみたいだな。
面倒が無いのは良いことだ。