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27.モルカ台地――5

「――抑えたよっ」

「よし!」


 ――モルカ台地、とある遺跡の最深部。

 シャロの生み出した鎖が、エメス・ハイドロファング……宙を泳ぐ巨大な多頭魚の石像を拘束する。

 強靭な鎖にもゴーレムの剛力を前にして無数の亀裂が走る。だが……ケリをつけるには、その数秒が稼げただけで十分過ぎた。


 ユイハの両手にあった刀が合わさって一つの巨大な太刀になり、俺の馬上剣もまた乗っているアスラの黒炎を喰らって淡く輝く。

 そして――。


「――死神の抱きし魔剣よ、破壊で以てその威光を示せ! 『アル・マヒク』!」


 詠唱と共に、リーネが構えた杖を包むように暗黒の剣が現界する。

 束ねられた三つの刃は迎え撃つように現れた障壁を打ち砕き、その先にあったゴーレムの核を両断。

 例によって硬直したエメス・ハイドロファングの身体は砕け散り、その後には魔法陣が現れた。


「ふぅ……これで幾つ目になるか」

『最初が牛頭鬼(ミノタウロス)、次が魔樹、その次が…………』

「たしか、羊みたいな角の奴じゃなかったっけ?」

『ああ、それだ。で、鳥人(ガルーダ)ときて今回の魚だから五つ目か』

『結構倒したものですね……あ、回復終わりました』

「ありがとうございます」


 一応魔法陣の他にも何か変化が起きていないか確認した後、魔法陣に乗って地上へ戻る。

 洞窟が崩れていくのを後目に湧いてきた魔物たちを撃破し、ガゼル……今は【中佐】でもある男に報告の念話(フレンドコール)を送る。


『もしもし、リュートだ』

『うむ。遺跡の攻略が終わったということでいいか?』

『ああ。今回現れた魔物は浮遊する魚で名前はフロートゥーノ、レベルは80前後ってところだ』

『そうか。攻撃パターン等に関しては……』

『間合いまで近づいた敵に噛み付きか、刃状のヒレで切り付けながらの突進。ああ、溜めが長いから見切れるとは思うが水鉄砲で遠距離からも攻撃してくる。以上だ』

『了解した。他に何か変わったことはあるか?』

『いや、特に無いな』

『では今回も通例通りに頼む』

『分かった』


 流石に五回目とあって、報告もだいぶ形式じみてきた。

 ……遺跡に関して、当の製造者であるレムが答えを知らない以上正しい情報を得ることは不可能に近い。せいぜいパターンの集計から推測を重ねる程度が限界だ。

 そのうえで現在の認識をまとめると……。


 まず、遺跡の所在は完全にランダムとなっている。その構造は比較的シンプルで、中にはこれまで確認されているよりレベルの高い魔物が徘徊している。

 最深部には現れる魔物と同系統のものを模した巨大なゴーレムがボスとして鎮座しており、それを撃破して現れる魔法陣から脱出すると遺跡は崩壊。それまで遺跡があった周辺地域に、それまで遺跡の中にいた魔物が出現するようになる。

 それは地中から文字通り湧いてくるという形になっており、詳しい原理は不明。ただ全滅しても一定時間ごとに再び現れ、また、積極的にその場を離れるような行動は見られない。

 また、遺跡ごとに手にした者の武器として得られる宝玉が一つ存在するのも共通か。


 得られる経験値といいドロップといい、遺跡の魔物から得られるリソースは膨大だ。

 以前レムから得られた情報も合わせて考えた結果、()の世界で技術という形を取っていた要素を()の世界で有用なものに変換した結果がこの魔物たちではないかとされている。

 事実がどうかは分からないが、とりあえずそういう解釈の元で人間達は魔王に備えて経験値を稼いでいる。

 いつしか「本部」と呼ばれるようになったガゼル率いる集団の指導のもと、適応者でない人間たちもそのレベルを上げてきた。聞いたところだとその上位の集団が平均してレベル60台ってところだったか。


 どこまで参考にできる情報かは怪しいが……いつかシャロが「暴露」に失敗した時。表示されたサタンとかいう魔王のレベルは三桁だった。

 レベルに対する実力が桁外れなアスラのような例もあるから一概には言えないが、まだまだ安心はできないな。


 その日の晩。

 皆が寝ているのを確認して俺はエルピスの背を降りた。

 少し離れた場所へ移動する俺に、人化したアスラが音もなくついてくる。

 ……見られるのも気まずいものなんだがな。

 まあ俺一人じゃ何かあったとき無力なのも確かだし、護衛だと言われれば断ることもできない。


「ゴホン……。■■―、あ■―」

「主も飽きないものだな。乗るか?」

『う……いや、やめておく』


 やっている事はただの発声練習みたいなものだ。

 俺とリーネは「傾命の虐呪(ベルディグドム)」の呪いの一環でマトモに声が出せない。だが、同じ呪いを受けていたアスラは少し前にそれを克服していた。

 それは単純にレベルが上がり、力が強まったことによるもの。なら俺も、いつか声が戻った時に備えておきたいと思っているのだが……光明は中々見えない。


「そう遠慮するな。主は我に乗っている時こそ本領であろう」

「■っ……!?」


 一瞬で回り込まれ、為す術もなく背負われる。

 クラスの性質上しかたないと開き直ることもできるが、やっぱり情けないな。

 ……ん?

 騎乗補正が働いて鋭敏になった感覚が気配を捉える。


『あ……』


 恐る恐る振り向くと、そこには気まずそうに立ち尽くすリーネの姿があった。


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