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26.タジ洞穴――8

「――やったか?」

『おい、フラグ立てんな』


 呟いたユイハに突っ込みを入れる。

 無用の心配だったか、指摘するとフラグを打ち消せるとかいう補正が働いたのかは定かではないが……硬直するエメス・ケノベウロスに無数の亀裂が走った。

 次の瞬間、ゴーレムの身体が砕け散る。破片は落下しながら光の粒子になって宙に溶けていき、最後には元から何も無かったかのように消え去った。

 代わりに現れたのは……。


『魔法陣……?』

「……みたいだねー」

『順当に考えれば帰還ポイントでしょうけど、次のステージに続いてるのかもですね。まあ乗ってみましょうか』

『ちょっと待て』


 何のためらいもなく進もうとしたリーネを呼び止める。

 振り返ったゲーム脳の少女は、何も考えていないような顔で首を傾げてみせた。

 確かにゲームじゃ珍しくないギミックだが、あの主人公たちもよく謎の魔法陣に踏み込めるもんだよな。もはや凄いというよりおかしいレベルだろ。


『あのな……実際はどこに繋がってるかも、そもそも転移用かも分からない魔法陣だぞ? 罠だったらどうするんだよ』

『リュートさんの言うことにも一理ありますけど、ここはレムさんの作ったダンジョンですから。さっきもですけど、ダンジョン自体の……善性、みたいなのを信じて行動して良いと思うんです』

『む…………レム、その辺どうなんだ?』

「たぶん大丈夫だと思いますよ?」

『そこは断言してくれ』


 意外とリーネも考えていて、思わず考え込む。

 というか、流石に何も考えずに行動してるように思うのは失礼だったか。

 一応聞いてみたレム(元神)の応えはやはり軽かった。まあ、これまで聞いた情報からすれば無理もないとは思うが……。

 俺の疑いに比べれば、リーネの意見の方が説得力はある。それに、確証がないからといってずっと足踏みしているのが愚策なのも――。


『そういうわけですから、乗りますよー』

「分かった」

「りょうかーい」

『良いだろう……主よ、どうせこうなれば一蓮托生だ』

『ん? お、おう』


 当然だが考えている間にも時間は進んでいる。顔を上げると、もう皆魔法陣に乗っているところだった。

 確かに、仮に今更俺一人がゴネたところで何も変わらないか。


『というかアスラ』

『なんだ?』

『もう戦闘も終わったし、俺降りて良いだろ』

『いや……先に何があるか分からないのもまた事実。わざわざ警戒を解く必要もない』

『せめて人化を解くぐらい――』


 リーネが魔力を込めると、魔法陣が淡く輝く。

 視界を覆い尽くした白い光に、念話(フレンドコール)もまた途中で遮られた。



「う……ここは……?」

「外に出たみたいだねー」

『おや、御主人たちっすか?』


 光が収まった時、俺たちはどこか見覚えのある風景の中にいた。

 近くにいたエルピスが駆け寄ってくる。

 辺りを見回せば、確かに俺たちが入った洞穴の入り口が見えた。どうやら本当に外に出ただけ……いや、どうも違うらしい。

 洞穴の入り口が震えだす。その直後、俺たちの立っている地面までが揺れ始めた。

 規模は……体感で言って、震度2くらいってとこか?

 危険を感じるほど大きいものじゃない。

 だが、洞穴は役割を終えたように崩れていった。


『中に誰か残ってたら、どうなってたんだろうな……』

「そこはちゃんと全員が外に出てから崩れてたんじゃない?」

『そういうもんなのか?』

「ま、実際どうとか今考えてもどうにもならないだろうけどね。それより……」

『ん? アレは……』


 シャロが指で示した方向。

 そこでは洞穴の中で目にした魔物が、地中から這い出してくるところだった。

 どういう仕組みか地面を透過しているように見えるが、実体はあるようだ。

 近くに現れた牛頭鬼(ディムタウロス)が咆哮と共に得物を振りかざす。


『な、なんすかコイツ!』

「洞穴の中にいた魔物、だよっ」

「――はぁっ!」


 シャロの放った短剣がディムタウロスの頭部に突き立つ。

 そこにユイハが鞘に収まったままの剣……元々使っていた方を一閃。

 短剣は釘を打つように深々と牛頭を貫いた。巨体が断末魔を上げて崩れ落ちる。


『どうなってんだ……?』

「さあ……ですが、皆さんもそろそろ疲労が溜まっているのでは? 一度離れて休むことをお勧めします」

「そうだな。だが、一応コイツらは片づけておこうか」

『が、頑張りましょう』

『なあアスラ、そろそろ人化を……』

『…………仕方あるまい』


 レベルが上がったこともあって、最初に遭遇した時よりは随分やりやすくなっている。

 俺も人化を解いたアスラの背に乗り直し、馬上剣を構えた。


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