24.タジ洞穴――6
大扉の向こうには、これまでと打って変わって巨大な空間が広がっていた。
一見してこの先へ続く扉の類は無さそうだ。
広間の中央には巨大な石像が鎮座している。
大体の形は牛頭鬼……これまで現れたディムタウロスに似通っている。
違いを挙げるとすれば頭が三つ、腕が六本という異形であること。
それ以上に、これまで見てきたどのモンスターにも勝る巨体が目を引いた。
モンスターの類かと思ったが動く気配はない。
ただのオブジェクト、なのか?
『ッ……皆さん、あの石像は……!』
『どうした、リーネ?』
不意にリーネが息を呑んで身構えた。
その視線の先にある石像は未だ動く気配を見せない。
それを察したかリーネも小さく首を傾げた。
警戒は緩めない様子で言葉を続ける。
『あの石像は、モンスターです。名前は……エメス・ケノベウロス。レベルは48、能力は視えません』
「48……!」
「能力は見えないかー。流石、ボスっぽいね」
『だが動く気配が無いぞ? 先に仕掛けろって事か?』
「――力を求めし者。枷を解き、番人に資格を示せ」
『ん?』
不意にレムが静かな口調で語った。
製造者としての発言かと思ったが……壁に記された文章を読み上げてただけか。
枷ってのは、天井から伸びて三つ首に繋がれた鎖の事だろう。
『アスラ、行くぞ』
『承知』
「……ふん」
同じ事を考えていたのか、俺の呼びかけにアスラは即座に答えた。
先ほど手に入れた派手な深紅の刀を抜きユイハも進み出る。
コイツとも考えが一致するとはな……。
アスラの手に獅子を模した炎が宿り、ユイハが刀を振り被る。
『な、何を考えて……!?』
『はぁッ!』
「『飛刃』ッ!」
『ダメですそんな――いやぁああ!』
先手必勝。
特に火力のあるリーネを欠くとはいえ、今放てる中ではかなり全力に近い遠距離攻撃が石像目掛けて飛び――。
『酷いです……ギミック無視だなんて……っ』
『いや、避けられるリスクは避けるべきだろ……と。駄目だったか』
しかしその攻撃は、鎖から飛んだ光に打ち消された。
ここは基準通りに動けっていう無言の強制か。
「なに謎の以心伝心で先走ってるの」
『痛てっ』
「アスラとユイハも」
『む……』
「うっ」
改めてリーネに鎖を破壊してもらおうと振り返ったところで、シャロに額を弾かれる。
シャロもさっきのには反対か。少し意外な気がする。
そんな思いが表情に出ていたのだろうか。
溜息をついたシャロが説明を始めた。
「いい? 一応このダンジョン作ったのはレムなんだから、僕らが本当に危険なようなら警告くらいくれるはずだよ……たぶん」
「そこは断言してくださ――」
「逆に、下手に手順を破ったらペナルティがある可能性もあったんだけど? それはちゃんと考えてた?」
『そ、それは……』
「あ……」
『多少なにかあったところで我なら問題ない』
「キミが平気でもボクらはそうじゃないの」
「む……」
「まったく。リュートまで罠を踏みに行くような真似しないでよ」
『済まん、気を付ける』
「あれ私は?」
う……指摘されれば返す言葉も無いな。
確かに考えが足りなかったと認めざるを得ない。素直に頭を下げる。
また一つシャロに借りが増えたな……。
ユイハ? コイツはどこか猪武者なところがあるし。
状況によってはそんな奴が一人くらい居た方が良いかもしれないんじゃないか? と適当に考えてみる。
「じゃあ改めて、リーネお願い」
『分かりました』
ともかく、仕切り直し。
リーネはボスを縛る鎖に向けて杖を構えた。




