22.タジ洞穴――4
「「「ブルル……」」」
「ふーん、迷宮にはお似合いって奴なのかな?」
『リーネ、どうだ?』
『は、はいっ。 えっと……』
現れたのはくすんだ体色をした牛頭鬼の群れ。
リーネの「看破」によれば名前はディムタウロス。
レベルは41と、これまで戦ってきたオークたちより高い。
数は……四体か。二体で横に並んで通路を塞ぎ、二列になって迫ってくる。
後列の二体は長物を装備していることから察するに、この形でPTを組んで徘徊しているようだ。
「じゃあリーネ、景気よく先制決めちゃってー!」
『任せてください! 穿て混沌の魔弾、「タスラム」っ』
リーネの翳した杖から闇を纏う光球が放たれた。
迎撃しようとした敵をすり抜け、その陣形の中央で爆発を起こす。
……普段はこういう詠唱の要る大技使うの渋るのに、ノリノリだな。
そんなにダンジョン探索が楽しいか。
『続くぞ』
「言われなくても!」
うおっ――!?
不意に駆けだしたアスラに合わせて視界が急変する。
騎乗補正がかかった俺の目にはあっという間に牛頭鬼を一体撃破するユイハと、同じ時間に三体を屠ったアスラが映っていた。
硬貨とアイテムを残してディムタウロスたちが消える中、俺のレベルが上がった。
「これは……凄いな」
『ユイハもレベルが?』
「ああ。金属のスライム程ではないが、だいぶ経験値が貰えるようだな」
「それに牛肉っぽいのもドロップしてるね。食べるのが楽しみ!」
『装備素材みたいなミスリルもありますよ!』
落とした金額こそ並だったが、一度の戦闘でこの収穫だ。
テンションが上がるのも無理はない。
更に先へ進むにつれ、それまで直線的だった道が曲がりくねり始めた。
これで枝分かれでもしていれば遭難必至だったが、幸い今のところ一本道が続いている。
念の為たびたび振り返ってはいるが、道が変化した様子もない。
『む……』
「また来たー! って、けっこう大所帯だから気を付けて!」
「分かった!」
ふらふらと現れたのは宙をさまよう牛の頭蓋骨。
名はスカルホーン、牛肉の類こそ落とさないが骨系の素材を得られる。
どれくらい有用かはまだ分からないが、他の素材の質から考えれば期待はできるだろう。
その後ろには三体のディムタウロス、そして黒い身体に双頭を持つ大牛……デュアルバイソンが続く。
『目くらましいきます!』
「よろしくっ」
リーネの合図に目を閉じる。
直後、瞼の上からも伝わるほどの光が生じた。
同時に視界を灼かれた敵のうめき声が響く。
その隙を逃さずアスラたちは駆け出した。
「はっ」
「せい!」
「「――!」」
まずはシャロの投げた短剣とユイハが飛ばした斬撃がスカルホーンを貫き。
『喰らえっ……!』
「「「グォッ!?」」」
アスラが降り抜いた巨大な炎剣がディムタウロスを三体まとめて斬り伏せ。
「おいアスラ、合わせるぞ!」
『良いだろう』
『私もっ』
双頭の間でユイハとアスラの斬撃が交差したところにリーネの放った混沌の投槍が突き立ち、デュアルバイソンの巨体を吹き飛ばした。
消耗もそれなりだが結構な数の敵を一度に撃破。
またレベルが上がった手応えが伝わってくる。
「ふぅ、ビックリしたねー……あれ?」
『どうしましたっ?』
「いや、そこまで食いつくほどのものでもないけどねー」
曲がり角の先、シャロが指した二つの方向。
一方にはこれ見よがしにそびえる大きな扉が。
そしてもう一方には、目を凝らさないと見逃しそうな細い脇道があった。




