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19.タジ洞穴

 今の世界の人口はそれほど多くない。

 規模の差はあれど村のレベルを超えない集落が、広がる平原の中に点在している程度だ。

 その平原には村と同様に散らばっている奇妙なものがある。

 やたら成長した杉みたいな木が一本だけ立っていたり、微妙に沈んでいるくらいの深さの窪地があったり。

 シャロが拾ってきた情報によれば、他にもストーンヘンジや地面を粘土のように引き伸ばしたとしか思えない謎の塔などが存在するらしい。


『――ただの目印だって創造者に言われると、途端に安っぽいな』

「咄嗟に考えられた最善の方法です。後悔はありません」

『そう言いながら目が泳いでるぞ?』

「うっ……」

『主よ、それくらいにしておけ。見つけたぞ』


 最寄りの位置にあった目印……積み上げられた岩の塔の周りを探索すること数分、アスラが「入口」を発見した。

 ところで地震でもあったらこの塔危ないんじゃないか?

 アスラが一見すると何も無いように見える地面を前足で押すと、落とし穴のように空間が生まれる。

 その奥では石造りの洞窟が口を開けていた。

 周りで邪魔が入らないように魔物の撃退を担当していたエルピスとリーネを呼び、一度集まる。


「レム、お前が言っていた力が眠る場所というのは此処で良いんだな」

「はい。本来なら入るのにも幾つかの試験を挟んでいたところですが……皆さんを試すのも今更なので省略しておきますね」


 そう言うとレムは入口の傍まで行くと、近くに隠されていた仕組みをスイスイと解いていく。

 だが……この入口のサイズだと……。


『エルピスは留守番だな』

『仕方ないっすねー……』

「他人事のように言っているが、お前も留守番だろう」

『何?』

「内部がどうなっているかは分からんが、小回りが効かない可能性を考えればアスラも適役とは言い難い。お前を乗せるとなれば尚更だし、お前単独など足手纏いでしかない」

『事実でも、我が主にその物言いは気に喰わんな……事実でも』

『なぜ二回言った』


 ユイハの指摘も的外れとは言えない。

 逆の立場なら俺も同じことを考えただろう。

 だが……そうなると、入るメンバーはリーネ、ユイハ、シャロ、レムの四人か?

 リーネとレムは直接戦闘に向いてるわけじゃないし、シャロの戦闘スタイルも支援と攪乱に近い。

 ユイハにしたって戦力からすれば本来の適性は一対一の勝負。

 洞窟の中の状況も分からないのに送り出すには不安が残る。

 ……あ、そうだ。


『おい、レム』

「なんでしょう?」

『この洞窟もお前が作ったんだろ? 中の地図とか分からないのか?』

「……済みません、ダンジョンは概念ごと引っ張ってきて大まかに形を整えただけなので、細部までは……」

「でも、さっき入口の仕組み解いてたよねー?」

「あれは簡単に設置できる単純な仕掛けを後から付け足したものですから」

『えっと、その……ダンジョンといえば。トラップなんかは、あるんでしょうか?』

「おそらく。あまり強力・凶悪とされているものは解除したはずですが」

『そう、ですか……』


 「はず」ってのも信用しにくいな……。

 というかリーネ、なんで少し嬉しそうなんだ?

 罠なんて無いに越したことはないだろう。

 ……モンスターハウス?

 ふと脳裏を過ぎった言葉に、なぜか寒気を感じた。


「あまりグズグズしているのも不毛だろう、行くぞ。リュート、お前は膝でも抱えて待っているんだな」

『『ま、待て!』』


 ……ん?

 アスラと念話(テレパシー)が被った。

 ユイハも足を止めて振り返る。

 珍しくバツの悪そうなアスラと視線を交わすと、まずは俺から一歩前に出た。


『未知のダンジョンに挑むってのに、その面子で万全とは言えねぇんじゃねぇか?』

「……なんだ、お前はそんなにダンジョンに入りたいのか?」

『違う。事実を指摘してるだけだ』


 これまで俺やエルピス・アスラも含めた七人でばかり戦ってきた。

 戦いの要になる前衛を一度に二人も抜くのはリスキーに過ぎる。

 そんな感じの事を先程の懸念と共に伝えると、ユイハも考え込むように沈黙した。


 ……あれ、これって手詰まりじゃないか?

 ユイハが急に玉砕覚悟で突っ込むとか言い出したらその限りじゃないが、それはどう見ても暴走だから止める。


『ふん……全く』


 そんな事を考えていると、アスラが呆れたように溜息を吐いた。

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