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18.ベラス平原――7

『――別格?』

『ああ』


 遭遇から数日後、俺は【軍曹】――いや、今は【少尉】か?

 【少佐】だったかもしれないが、細かいところは忘れた。

 とにかく、適合者たちのリーダー的ポジションであるガゼルに、アスラについて報告をしていた。

 フレンドコールのSNS機能で全体に知られても構わないレベルの情報ならシャロが上げているが、ここから話す情報については相談が必要だと判断した。


『出会ったのは東域の端、獅子のような姿の魔物で種族はアストラ。それで、名前はアスラ。ここまでは公開している通りだ』

『うむ』

『現在のレベルは9だが、能力はレベル46のユイハ以上だ』

『……!』


 息を呑む気配が伝わってくる。

 後から情報が追いついて分かったことだが、俺たちは適合者の中でもトップクラスの戦力らしい。

 なんでも早期にパートナー(エルピス)と出会ったことで、俺のダントツの初期レベルを活かしたレベリングが出来たのが功を奏したんだとか。

 そして、適合者はそれ以外……一般の村人辺りとは一線を画する戦力を持っている。

 ガゼルたちが一般人から有志を募って騎士団を育成しているそうだが、それは変わらない。

 つまり、この情報は僅かレベル9で人間側の最高戦力の一人を上回る魔物の存在を示している。


『まだ、驚くには早い。アスラは最初に出会った時、既に何者かの呪いを受けて瀕死だった。改善されたとはいえ、その呪いは今も解けていない』

『呪い? ッ、まさか……!』

『呪いはテイムした俺、解呪を試みたリーネに分散した。おかげで俺はマトモに喋れもしないんだが……能力的には、二、三割の減少ってところか』

『………………理解した。報告は、以上だろうか』

『ああ。今はっきりしてる情報はここまでだ』


 アスラ自身にも尋ねたが、呪いの影響で記憶も封じられているらしい。

 覚えているのは何者かに敗北したこと程度。

 その場所も、そこからどうやって此方に来たのかも定かではないそうだ。

 魔界での闘争に敗れた魔王……憶測ではあるが、それが可能性として一番高い程度か。


 まあ良い、この話はこれ以上しても進展は無いだろう。

 この際だからガゼルに通しておきたい話はまだある。


『あと、もう一つ。オーク共で経験値稼ぐのもそろそろ限界が近い。巡回はそっちの適当なパーティに任せて、俺達も探索に回りたいんだが』

『便宜上、我々が適応者を纏める役割になっているのは承知しているが……あくまで便宜上だ。わざわざ話の全てをこちらに通す必要は無い』

『便宜上だから、だよ。アンタらには悪いが面倒押し付けさせてもらうぜ』

『ふん……そちらの要求は理解した。だが、こちらも調査はほとんど済んでいる。収穫があるかは怪しいぞ』

『……ん? もしかして、お前は知らないのか?』


 これは以前、レムに愚痴をぶつけた時のことだ。

 人間が魔王に対抗する力をつけるには、人間の活動圏で得られるリソース――特に経験値が足りな過ぎる。

 今最も稼ぎが良いと思われるオーク狩りでもこの効率では、魔王に対抗できる力を身に付けるまでどれだけの時間を要するのか、と。


 ……答えは、前の世界(、、、、)での人間という種族が、世界に存在する力に対してあまりに脆弱だったからというものだった。

 確かに文明を謳歌したり兵器ぶっ放したりしてたが、個人という点で見ればゴブリンにも劣っていたのは認めざるを得ない。

 技術という概念は人間自身の力とは似て非なるもの。

 そして、人間が扱うには大きく肥大し過ぎたもの。

 よって()の世界では、以前で言う技術に相当する存在は封印状態にあるという。

 これでも人間側が自滅しないようにしつつ巨大な力をキープしておくための最大限の措置だったとかなんとか。


 それらの情報を伝えると、ガゼルは再び絶句した。

 とはいえ先程よりは早く復活して尋ねてくる。


『――そ、その情報はどこから?』

『レム……ビギナーズラック使って消滅を免れたヘルプからだけど』

『ッ……!』

『まあ、そういう事だ。俺達なら、何か見つけられるかもしれない』

『…………分かった。我々も、期待している』


 念話(フレンドコール)を切る。

 そうか、レム(元ヘルプ)からの情報は誰もが知ってるわけじゃないんだったな。盲点だった。

 ビギナーズラックを使うって手段を思いついても、効果を発揮する数だけ残っている可能性も高くはないわけだし。

 思いの外長引いた会話が終わり、いつの間にか肩に入っていた力が抜けた。


「お疲れー。報告、終わったー?」

『ああ。これからの方針も定まった』

『えっと……私たちが此処を離れても、大丈夫なんでしょうか?』

『ッ……、ああ。代役は頼んでおいた。まあ、引き継ぐ前に軽く掃除はしておくつもりだが……アスラ、頼りにしてるぞ』

『正直欠伸が出そうだが……リュートがそう言うなら、少し張り切るとしよう』


 まだ、リーネの念話には慣れないな。

 自分が聞かされる側になって、ユイハ達にどんな思いをさせていたかを思い知る。

 ……こんなんじゃ、駄目だな。

 首を振って気分を切り替え、俺はアスラに跨った。

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