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15.ベラス平原――4

 ……う…………。

 そういえば数日前もこんな風に目を覚ましたんだったか。

 あの時とは違って、意識に薄く靄がかかったような感覚が離れない。

 ずっしりと重い身体を何とか起こすと、そこは案の定エルピスの背中だった。

 辺りはまだ暗い。

 皆も眠っているようだった。


『目が覚めたっすか、御主人?』

『……ああ』

『言いたいことは色々あるっすけど……とにかく、御主人が堕族(フォールン)に乗った後からの事を話すっす』


 皆を起こさないよう、念話(フレンドコール)で返事をする。

 エルピスは静かな様子で伝え始めた。


 まず、俺が獅子に乗った直後。

 俺自身も認識したように一瞬で獅子を蝕んでいた呪いが移り、尋常じゃない様子で苦しみだした。

 真っ先に駆け寄ったユイハが俺を引きずり下ろそうとしたが、それは墨色の霧に弾かれる。

 それを見たリーネは、俺を獅子に乗せたまま魔法で治療を始めた。

 治療を始めて間もなく、霧は微量だがリーネにも移った。


「何、■■て――ッ!?」

『御主人、落ち着いて声を抑えるっす』


 予期せぬ事態に思わず声が漏れた。

 その声の一部にノイズがかかり、まともな言葉になっていない事に再度衝撃を受ける。


『リーネが解析した情報だと、その霧は「傾命の虐呪(ベルディグドム)」。これを受けた者の能力を制限するらしいっす』

『一つ聞かせてくれ。……リーネの声も?』

『そう、っす。念話ならこうして普通に話せるのが救いっすね』

『もう一つ……呪いは、お前にも移ってるんじゃないか?』

『……やっぱバレるっすね。でも呪いが移ったのはコレで全部。シャロとユイハ、レムは無事っす』


 ……っ。

 今の俺は冷静だ。

 少なくとも、あの堕族を目にしていた時に比べたら。

 そうして残ったのは後悔と罪悪感。

 俺の暴走に巻き込んで、エルピスとリーネまで傷つけるとか……最低だ。

 ユイハに何言われても言い返せないな。

 それで、元凶……いや、この事態の責任は全面的に俺のものだが。

 あの獅子はどうなった?


『ああ、それは直接聞いた方が早いっすね。そういうわけで起きるっす後輩ー』

『む……』

「!」


 エルピスの呼びかけに応じ、新たな思念が念話に割り込んだ。

 慌ててエルピスの背から身を乗り出すと、あの堕族が地面で寝ていた。

 纏わりついていた墨色の霧は消えている。

 身に刻まれた焔のような同色の痣が名残を感じさせるものだろうか。

 ……思わず確かめた俺の二の腕にも、同じ痣があった。


『お前は……一緒に来ることになったのか?』

『呪いから救ってくれた恩人だからな。借りは返さねばなるまい』

『そうか』

『呪縛も弱まり、我が力はお前たちの誰にも優る。役には立つさ――これ以上のことは、皆が目覚めてから纏めて話した方が良いだろう』

『分かった。……今、一つだけ聞いて良いか? お前をなんて呼べば良い?』

『種族名はアストラだ。名前ならお前の好きにして構わない』

『………………』

『あれだけ我が呪いを引き受けては、まだ辛いだろう。今は身を休めるが良い』

『後輩の言う通りっす』

『…………分かった』


 もしかして、意識を保っているのも限界に近いのが見抜かれていたのだろうか。

 返事を返せたかも定かではない。

 沼に沈むような感覚と共に、急速に意識が薄れていった……。

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