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14.ベラス平原――3

 さて……流石の俺も、二匹の魔物に同時に乗る事はできない。

 駆けるエルピスの背で片膝をつき、距離を測り……飛び出す!


「■……!?」


 一瞬、堕族(フォールン)の獅子が驚いたように見えた。

 それもそうか。

 まだ獅子は歩いていただけだ。

 俺たちの事を敵として認識していなくてもおかしくない。


「うおおッ!」

「■■■……!」


 ――速い!

 正面から行って無抵抗などというはずもなく。

 振り抜いた左手の騎乗帯(ライダーベルト)は、掲げた前足にいとも容易く防がれた。


 帯は相手の前足に絡みついたが、騎乗してない俺がユイハ以上の身体能力を前に力比べをしても結果は目に見えている。

 ……だから。

 ここからは、【ライドマスター】としての「技術」の見せどころだ。


「■■ッ!」

「く、お……ッ」


 振り払われそうになる力を受け流し、逆に獅子の方から引き寄せさせる。

 獅子は更に抵抗しようとするが――。


邪睨(イヴィルゲイズ)!」

「■!?」


 並のゴブリンやネズミ程度なら即死させる一瞥を受け、動きが一瞬だけ止まる。

 更にシャロの生成した癇癪玉が周囲で炸裂し、怯ませることで更に好機を持続させる。

 確か「タイニークラッカー」とかいうスキルだったはず。威力こそ低いが、こういう時に最も大きな効果を発揮してくれる。

 駄目押しにユイハが飛ばした斬撃が獅子の鼻先を掠めて牽制。


「取った!」

「――――!」


 ここまでのアシストがあって……乗れない、はずがない。


 そして……問題はここからだ。

 獅子を蝕んでいた墨色の霧に触れた箇所の感覚が喪われる。

 乗った後のことは、何も考えていなかった。

 だが、俺が何かするまでもなく状況は動く。

 それまで獅子の身に纏わりついていた霧は、それ自体が生き物であるかのように蠢き……俺は、一瞬で呑み込まれた。

 全身から感覚が奪われる。

 五感を断たれ、奇妙な浮遊感が襲い掛かってきた。

 ……その状態さえ、長くは続かない。


「グ……ッガ、ァアアアアアアアアアアア■アア■アアア!!!!!」


 与えられたのは、全身をくまなく引き潰されるような激痛。

 聴覚も触覚も機能していないが、自分が絶叫している事だけは分かる。

 いや、そんな事を意識するような余裕もない。

 時間の感覚などという高尚なものは元より、思考を維持する事さえ適わない。



「――ガフッ、■、■■■■■ア■■アア■■!!!」


 ――身が滅びたか、心が朽ちたか、或いは永劫の時が過ぎたか。

 激痛という言葉でもまだ温い地獄の中、意識が小さな違和感を捉えた。


「――■■■■■あ■■■……■……!!」


 鼓膜を震わす声。

 自分がしがみついている何かの温度。

 咽返るような鉄臭さ。

 口内を満たす血の味。

 目を開くと、ぼやけた視界が広がる。


 俺がそれらを認識したのは気のせいで。

 実際は夢でも見ていたのかもしれない。

 現実かどうか確認するより早く、俺の意識は途絶えた。

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