13.ベラス平原――2
なんというか……初めてエルピスと遭遇した時に近い。
本能に近いレベルで身体が動こうとしている。
「っ……」
「■■■■……」
ただし、違う事だって多い。
自分、そして相手の実力。保険の有無。
他にも幾らか挙げることは出来るが……詰まる所、危険度が段違いに高い。
分の悪い賭けになる。
俺は退けないが、リーネたちに……仲間に迷惑がかかるのを無視する程とち狂っちゃいない。
なら――。
「あー、俺ちょっと忘れ物したから。皆は先に行っててくれ」
「「「………………」」」
あれ、失敗したか?
全員に信じ難いものを見るようなジト目を向けられてしまった。
「リュート……気は確かか?」
「ぐっ……」
あのユイハが純粋に心配した様子で声をかけてくる。
そこまで変だったか?
いや、確かに自分がやろうとしている事を考えたら我ながら正気の沙汰とは思えないが。
「っていうかさー、ホントに乗る気なの?」
「ん?」
「まさか自分が手に持ってるものに気付いてない?」
「予備のライダーベルトだな。――そりゃバレるか」
これは……俺は自覚している以上に浮き足立っているらしい。
嫌だな、まだ死にたくないんだが。
「それで本音は?」
「今の俺はスイッチ入って暴走してるようなもんだが……それにお前らを巻き込むわけにはいかないからな」
「はぁ……今ほどお前と仲間になったのを悔やんだ事は無い」
「リュート縛り上げて逃げるって手もあるけど、結果的にあの魔物を放っとくのも危なそうだしねー」
……?
予想と違う反応に戸惑う。
可能性の一つとして、罵りもされないパターンくらいは考えていた。
なのに、どうして彼女らは去ろうとしない?
「ユイハたちも手伝うと言っているんですよ。無論私も」
「無茶しないでくださいって……言ってるのに……」
「あー……済まん、リーネ。それに皆も」
「本当にそう思っているなら――いや、いい。それよりどう動く?」
…………。
観察していれば、なんとなく分かってくる。
今から相手にしようとしている獅子――堕族が、これまで戦ってきたどの魔物より強いということ。
その獅子が今どれだけ弱っているのかということ。
今最も警戒すべきは獅子を蝕む墨色の霧だということ。
それが分かった上で、俺は仲間を巻き込んで獅子に挑もうとしている。
なら……最低なりに覚悟を決めるべきだろう。
幾つか案を出し合った頃、獅子がいよいよ射程圏に迫ってきた。
「痛っ――」
「リーネ!?」
「平気です。今から、視えた情報を伝えます」
獅子を解析しようとしたリーネの身体が硬直し、直後に目を抑えてよろめいた。
駆け寄ろうとするユイハを制してリーネは続ける。
そのレベルこそ8だが能力はユイハに匹敵し、生命力も大きく減衰してなお並の魔物を凌ぐほど。
今の状態でもエルピスと同等以上の動きが予測される。
最後に、やはり墨色の霧が最も危険らしい。
『看破』を試みたリーネにダメージを与えたのも霧の効果なんだとか。
データは集まった。
俺以外を降ろしたエルピスは獅子と距離を取り、その少し前にリーネとレムが立ち、最前列にユイハとシャロが並ぶ。
極限まで意識を集中させ、タイミングを探る。
「その一歩」を獅子が踏み出した瞬間――。
「頼むエルピスッ」
「クェエエエッ!!」
器用に肉声と念話で同時に雄叫びを上げ、エルピスは猛然と駆け出した。




