1.プロローグ
新シリーズ3話投稿の一話目です。
ジリリリリリリ!
「っ!?」
高校でのテスト中、不意に響いた非常ベルの音。
全く、誰だよ押した奴――。
『神です』
は?
強制的に意識を惹きつけるような透き通った声。
普通に言葉を発しているだけなのにまるで歌のように響くそれは中性的で、誰が発しているのか見当もつかない。
そもそも……この声、何処から?
教室を何か波のようなものが走り抜けたのは、その時だった。
『この声が聞こ……い……らば……』
明瞭に聞こえていた声に、急にノイズが混じりだす。
これって、聞こえる内に入るのか?
そう思った時――世界が、歪んだ。
壁紙が剥がれるように空間が捲れ、捩れた机から極彩色の花が開き、ズレた同級生の身体の断面から名状し難い何かが溢れ出し――。
幸い目の前で起きていることに頭が追いつくより早く、目の前の光景が写真を握り潰すように捻じれる。
視界は黒に染まり、やがて全ての感覚が失われた。
「――ッ!?」
気付くと俺は見知らぬ場所に立っていた。
まるで宮殿か何かの広間のような……だが、よく見ればその内装はボロボロ。
一切の手を加えられていない古代の遺跡なんかを連想させる。
周囲でざわついているのは、ざっと百人近い人々。
見覚えのある日本人っぽいのもいれば頭にターバンを巻いたおっさんに西洋系の顔立ちの美少女等々、見事に統一性が無かった。
――いや、一人だけ様子の違う奴がいる。
風も無いのに真珠色の長髪をたなびかせる性別不詳の美人が、広間の二階で謎の存在感を放っていた。
自ずと集まる視線。
全員の意識が向けられたのを確認すると、美人は……無数の小人みたいなのに分裂した。
……って、どういう事だよ!?
まるで理解できないまま動いていく状況に、広間は最初以上にざわつく。
小人は背中に羽を生やして半透明の妖精にクラスチェンジすると一階の人々の元へ飛んでいく。俺のところにも一人来た。
『――それでは、事態の説明を』
「なんだ自称神」
『正確にはその残滓ですけどね。ヘルプ君でもヘルプちゃんでも好きにお呼びください』
「…………」
『では説明を。外来の魔神に世界核を穿たれた影響で、これまで世界を構成していた全てが変質しまして』
「全て?」
『物理法則、因果律、世界の構成要素……とにかく文字通りの全部です。私の力の及ぶ範囲で組み直しましたが……なにぶん激戦の直後だったもので』
当然のように肩に乗って、元神……自称ヘルプは説明する。
今この広間にいるのは、元の世界とほとんど変質せずに今の世界に適合できた人間であること。
機械の類はそれを支えていた細かな物理法則ごと全滅したこと。
スキルや魔法、クラスといった概念が発生したこと。
『――というかもうゲームじみた異世界にでも転移したと思ってくださって結構です』
「アバウトだなおい」
『個々人に最適化された結果ですからー』
ヘルプ曰く、俺たちほどの精度では適合させられなかった人々は元から変化後の世界で生きてきた認識でいるらしい。
そいつらより更に適合の精度が下がった人間や動植物なんかは魔物に変異したんだとか。
「……というか俺たちも現地人になれた方が幸せだったんじゃないか?」
『申し訳ありませんがそこまで手が回らず……色々とマズい要素を削減するのとバランスを取った結果です』
「ちょっと待て。マズい要素?」
『そ、それよりですね。こちらをご確認ください』
追及しようとしたところで、いつの間にか視界の端にあったアイコンがぴこーんと点滅した。
あたかも別窓が開くようにウィンドウっぽいもの――というかそのもの――が出現。
名前:リュート・ディズラス
クラス:ライドマスター
Lv.31
あとはレーダーチャート風にSTRやらAGIといった能力が示されている。
リュート? 俺の名前は…………あれ、思い出せない。
言いようのない噛み合わなさというか歯痒さに落ち着かない気持ちになる。
このカウボーイに仮装した学生みたいな奴はまさか俺なのか?
「それよりライドマスターって何だ?」
『あー……固有ですね。クラスアップはしない感じです』
「クラスアップって言うと、魔法使いが進化して賢者ーみたいなアレか?」
『大体そんな感じです。具体的なところはもう私の手を離れているので何とも言えませんが』
ヘルプに言われてクラスのところに意識を集中させると、スキル一覧という項目が現れた。
・フレンドコール
・アイテムボックス
・ビギナーズラック(3)
・ライドマスター
「……説明を」
『フレンドコールとアイテムボックスは、此処に集めた方々は全員使えるものですね。それ以外に使える方は……ごく少数です。効果はリュートさんのイメージ通りですね』
「ビギナーズラックの横についてる(3)ってのは?」
『余った力で作った能力で、三回だけ因果律を上方修正できます。今の時間換算で一週間もしたら自然消滅しますけどねー』
「そんな余力あるなら俺たちも現地人になれたんじゃないか?」
『一万円あるからって自動車は買えないんですよー?』
「……」
『あうっ』
言わんとする事は分かったが、なんかイラッと来たからデコピン。
これも最適化の結果というならバグを疑わざるを得ない。