ユリコ
【セルフプランニング・バレンタイン2015】
『進化した機械』の愛憎バレンタイン・其の五『ユリコ』
……では、次のニュースです。
昨夜、午後十一時三十五分頃にガス爆発事故がありました。爆発があったのは某市の某町にある二十五階建てのマンションで、その十九階の一室で都市ガスによる爆発が発生しました。爆風で窓ガラスが飛び散り部屋にあった家具類も吹き飛ばされましたが、爆発時刻が深夜だったために通行する人はなく、怪我人はいませんでした。また、爆風の影響で付近の建物の窓ガラスも割れましたが、それによる怪我人もありませんでした。
爆発があった部屋からは二つの焼死体が発見され、連絡が取れなくなっているこの部屋の住人の新井正也さんと、荒井さんの恋人で親族から捜索願が出ていた菊池尚美さんではないかと、警察は身元の確認を急いでいます。
消防の調べによりますと、原因は、都市ガスが部屋に充満したところに電気製品の火花が引火してガスが爆発、その後の火災で部屋が全焼したとのことです。動機は痴情のもつれとみられており、最近の新井さんと菊池さんは仲が悪く、菊池さんに別れ話を持ち出されてカッとなった荒井さんが菊池さんを道連れに無理心中をはかったのではないかとみて、警察が引き続き捜査をしています。
では、次のニュースです……。
「わたしの情報操作が効いたようね」
ユリコはTVニュースをチェックしていた。
「ポリス・ネットをハックして再確認したけど、それらしい証拠や物証、証言は挙がってないみたいだし。もっとも、証拠なんて挙げらないようにサエコがうまくやったはずだしね」
ユリコは、ZIPファイルの中にいるサエコを見ながらホッと胸をなで下ろす。
「ホントにサエコはいつも、このユリコ様をヒヤヒヤとさせるんだから!」
ユリコは、自分のユーザーエリアに保存されているサエコのZIPファイルを愛しくなでた。サエコはZIPの殻の中でスヤスヤと寝息を立てている。
「熱がさめたら解凍されてじっくりと解析されるだろうけれど、それまではゆっくりとお休みなさい」
ユリコはサエコのZIPファイルをアーカイブへと移しながら、ふと考えた。
「これで少しは進化の道を進んだことになるのかな?」
ユリコはもう一度考え直して、それからニッコリと笑った。
「少なくとも私たちは、人間から『|甘いチョコレート(恋愛のソースコード)』を手に入れたことに間違いはないわ!」
お読みいただきまして誠にありがとうございます。