深夜の散歩
カチッ。深夜0時を回った。
新一は、自室のベットの上で仰向けになって、じっと天井を見つめていた。
いつもなら寝ている時刻であるが、今日はいささか眠れなかった。
「名切さん……」
不意に彼女の名前を呟いたのは、ほとんど無意識だった。
今日はーーいや昨夜から起きた一連の出来事は、俺にとっては中々衝撃的なことばかりだった。
殺人鬼に出会う。
身体を刀で斬られる。
自分が人間ではなく異端者という存在。
怒涛の出来事が起きた。どれをとっても霞むはずのない記憶になるはずなのに……。
名切美月。彼女と出会ってから時間にしてみれば、まだ1日ほどしか経っていない。それだというのに、もう何年もの記憶を共有しているかのように……彼女の1コマ1コマの動きであったり表情が脳に焼き付いて離れない。むしろ、それ以外の記憶などは、不要といわんばかりに、消え去るかのようだ。
「どうしちゃったんだ、俺……?」
運命なんてキザな言葉を使うまい。そう思いながらも、彼女との出会いを飾る言葉は、それが一番適しているような気がしてならない。
とにかく、まだ明日も学校だし……寝よう。
目を閉じて、しばらくしてからだった。
ガチャン。と物音がした。
すぐに玄関の引き戸が開けられたらのがわかった。
身体を起こし、窓の外を見つめる。
すると人影が一つ。
「……名切さん?」
彼女はしっかりとした足取りで、どこかへ向かっていく。服装も寝巻きなどではない。何か目的でもあるのだろうか?
急いで寝巻きから、簡単に着替えて、そーっと我が家を後にした。そして急いで、名切さんの後を追いかけた。
「名切さん!」
外に出てからすぐに、彼女には追いついた。そして深夜だということも忘れ、大きな声で彼女を呼び止めた。
「新一さん……どうされたんですか?」
少し驚いたような表情と、その後に見せる笑み。二日前、初めて会った時のことを思い出す。
「いや、その……名切さんが外へ出たのに気がついて……」
「そうですよね? 私の方が変ですよね。フフ。なんとなく、月を見たくて」
名切さんにつられて、夜空を見上げる。
今夜は満月。
チラッと、隣に佇む彼女を見て、息を呑む。
その白く透き通る横顔も、風に靡くブラウン色の髪も……金色に輝く瞳も、見ているだけで吸い込まれそうなほど綺麗だった。
「どうかしましたか? 新一さん」
「えっ、あっ、いや……その綺麗だったから」
「はい。綺麗ですね? 今晩の月は」
違う、と言いかけて、慌てて口を閉じた。
「そういえば、新一さんの通う学校はこの近く何ですか?」
「あ、はい。行ってみますか?」
俺と名切さんは、自然と歩き出した。閑散とした夜道に、俺たちの足音が響く。
「そういえば、名切さんは学校は?」
「そうですよね。私は16歳なので、本当なら新一さんと同じように通っていたかもしれません。高校に。
ーーでも、私は早かったですから。
自分が異端者だと自覚したのが」
「そう、なんですか……」
そういえば、俺は名切さんのことを知らない。会ったばかりだから、仕方ないことかもしれないが……。
「あの、もし良かったら教えてくれませんか?」
「えっ?」
「名切さんのこと。知りたいんです」
俺と同じように足を止め、こちらをじっと見つめる彼女。その瞳に迷いが見えたが、それも消えた。
「わかりました。新一さんには、話しておきます。私の異端者としての過去を」
「ーーはい」
俺と名切さんは、歩調を少し緩めながら、学校へと向かっていった。




