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どうして? 約束
「城内さん……」
「千春」
振り返ると、そこには千春が立っていた。
うるんだ瞳が何を物語るのか、もうわかっていた。
「兄は……お兄ちゃんはもう行っちゃったんですね?」
「――ああ」
「どうして?」
一歩踏み出す彼女。その瞬間。我慢が切れたのかもしれない。
駆け出すようにして、僅かばかりの距離を詰めると、徐に胸に顔を埋めて、何度も拳を叩き付ける。
「どうして、お兄ちゃんを止めてくれなかったんですか!」
「すまない」
「そうじゃなくて、どうして……」
「すまない」
「そうじゃないんです! いいんです……もう。私も止められませんでしたから」
「千春……」
ようやく顔を上げた千春の顔は苦笑交じりだった。
「お兄ちゃんにとっては、名切さんが大事なんです。他の何をおいても」
「それは……」
「それでも、止めたかったんです」
その言葉を聞いて、そっと彼女から離れると、俺も歩き出す。
あの男の後を追うようにして……。
「城内さん。必ず帰ってきてくださいね?」
「……フン」
どちらとも言えぬ返事だけを残して、俺は新一の後を追った。




