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魔女の狩人  作者: 秋
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魔女の狩人 千春との出会い

「『生命の根源に至る鮮血』か……」

城内は、刀を片手に、不意に今回の標的の通り名を呟いた。

「フン。何を迷っている」

距離にして一キロか。公園にある街灯のテッペンに立って、傍観するは、標的の住まい。

住宅街にある一軒家。どこにでもある佇まい。却ってソレに嫌気が差す。

もっと他者と孤立していれば、と思ってしまう。少なくとも今回の標的は、昨夜までは、普通の人間として暮らしていたということだ。

「だが、アイツは異端者だ。それに…‥」

ヤツの傍にいたあの女。

赤い瞳……見間違いなどではなかった。

「ッハ! やっぱりな」

一定の間隔を空けて設置されている街灯の一つ。そこに人影が一つ。

「フン。どうして貴様がここにいる」

自分と同じように、街灯のテッペンに立つ男は、見知った顔だった。

「オイオイ、テメエはいつからそんなに偉くなったんだあ? 俺と対等に話してんじゃねえよ」

奴の名前は、鬼木双子。最近、教会内で頭角を現してきたのは知っている。

「俺はお前と違って『名付き』なんだからよお。ッハ!」

だが噂に聞くところによると、無関係な人間すらも殺しているらしく、上位階級者にのみ与えられる『名付き』いわゆる称号が……。

「最狂の狩人……」

「ッハ! わかってんじゃねえか」

「フン。今回の標的は自分が異端者であることも自覚していないような奴だ。貴様の助けなど要らん」

鬼木はまたしても「ッハ!」と笑って、

「そいつには目にもかけてねえよ。ただ、もう一人いんだろうが」

「まさか……」

「そうだ。あの女。アイツは間違いなく魔女だぜ」

魔女……。それは異端者の中でも、特異中の特異であり、最も畏怖するべき存在。

「だが教会からは何の情報もなかった」

鬼木は「ッハ」と馬鹿にしたように笑うと、

「それが情報だろうが」

と言った。

「あの女は諜報部員を悉く、皆殺しにしてやがるからなあ。情報なんて皆無だ」

そんな女が……何故、あの男と。それだけの利用価値があるのだろうか。

「ッハ! まあどの道殺すがな。標的も、あの女も。ーーついでに、あそこでこっちをじっと見ている女学生も殺すか?」

ハッとして振り向くと、確かに一人の少女がこちらを見上げている。

そして何を勘違いしたのか、

「あのー、そんな所に登ったら危ないですよー! ったく、何を考えているんだろう……」

などと呼びかけてくる。

驚きのあまり返す言葉もない。

何故、俺たちを視認している……。

俺の疑問に気付いたのか。

「ッハ! そんなの決まってるだろうが」

鬼木が無造作に刀を抜く。

「凡人の視界でも、電柱の全体を捕らえることは出来るし、意識していなくても、テッペンに人が立ってりゃあ飛び込んでくる。だが、問題はこっからだ。普通の人間なら、そんな人間がいても認めない。無かったことにする。だから俺たちがこんなところで、何をしてようが誰も気づかない」

鬼木の言うとおりだった。今、こちらを見つめている彼女以外にも、何人かがこの公園を横切り、そして我々の存在に気づいただろう。目が合った者もいる。だが、視線を外し合えばお互いに何も無かったかのように……まして声をかけてくる者など有り得なかった。

「これがどういうことだかわかるか?」

鬼木の軸足に力がこもるのがわかった。

「っく!」

それを見て、自然と身体は、彼女の方へと飛び出していた。

「ッハ! 命令違反に相当するなあ。その愚考は! 城内!」

「フン! 貴様こそ、教会の掟に刃向かうつもりか! 鬼木!」

彼女の目の前で、鍔迫り合いにもつれ込む。だが……。

「ッハ! 所詮はこの程度か!」

あっという間に、体勢を崩され、喉元に刀が突きつけられる。

「いいか? 俺たち異常な者を視認すいまではいい。だが、そこから存在を認めた時点でこの女はアウトだ。異端者に転じる可能性、もしくはそれらと関わりがあると考える。だから殺す」

「フン。横暴だな、貴様の考え方は。

この女子は、異端者リスト、データに記録されていない。現段階では間違いなく人間。我々は人間を守る為に、異端者を狩っていることを忘れたのか!」

「ッハ! じゃあ何故、俺が『最狂の狩人』と呼ばれているかも知っているか? せっかく建て前というのしを付けて、納得のいく殺人を犯してやろうと思ったのによお」

フン。そうだったな。コイツには、元々任務や規則など関係はない。

ただ殺せればそれでいいのだ。

ならば……。

「まあ、お前も邪魔だしなあ。ついでに殺すか?」

「やはりな」

完全な殺意を向ける鬼木。こちらも応戦したいところだが、実力差は明白だ。

このままでは……。

その時だった。

「誰か助けてくださーい!」

今までずっと黙っていた女子が、突然大声で叫んだ。

「なにを……?」

「ッハ! やられたなあ」

困惑する俺に対し、鬼木は諦めたと言わんばかりに刀を仕舞う。

そんな俺たち二人に対し、女子はこう言い放った。

「ったく。私は人間です。なんの話だかわかんないけど、イタンシャ? とかいうのじゃないですから。それにあなたたちのルールに従うのならば、これで私が人間だということは証明出来たと思うけど?」

耳を済ますと、いくつかの足音がこちらに近づいてくる。それに心なしか。住宅街の明かりも幾分か増えている。ということは、この女子の存在を他の人間認めたということ。認められない存在が異端者。つまりこの女子は……。

「人間だな」

思わず笑みが零れたことに、自分でも気がつく。

「大した女だ。いいぜ。今回は見逃してやる。お前も、オマエもなあ」

鬼木は俺と彼女に、サッと目配せする。

「だが、次に会ったら殺すぜ! 確実にな」

背を向けて歩き出す鬼木は、街灯の光から暗闇へと姿を消した。

「……はあー」

その瞬間。大きな溜め息と共に、女子がその場に座り込む。

「どうした?」

「なんかその……気が抜けちゃって」

見れば身体をガタガタと震わせている。

「もしかして、あなたたちは、ここ最近起きている連続殺人と何か関係があるんですか?」

「そうだ」

しかし、彼女のこちらを見つめる瞳には恐怖はない。

「そうですか……」

「怖くはないのか?」

刀を仕舞って、手を差し出す。

掴んだ手の温もりは、間違いなく、人の暖かさがあった。

「うーん。怖いです。正直。とくにさっきの人は、怖かった。ホントに!

でも、あなたは……」

吸い寄せられるような彼女の大きな瞳から、視線を外すことは出来なかった。

「お兄ちゃんと似ているから」

「兄?」

「あっ、はい……まあ他人の為に頑張る無鉄砲なバカなお兄ちゃんなんですけど」

「兄妹揃ってか……。お前たちは変わっているな」

「あー!」

突然。大声を上げた彼女は、何やらふてくされた様子だ。

「ったく。お前って、女の子に向かって言わないで下さいよ? って……そういえば、自己紹介がまだでしたね?」

もう関わることなどないだろうが、なんとなく彼女とは名前を交わしておきたかった。

「私は、千春です」

「フン。俺は、城内武だ」

千春は満足したかのように、頷いて、

「城内さんか……じゃあ、絶対に忘れないでくださいよ。私の名前、城内さん!」

「ああ。千春だな」

次の瞬間。彼女の言葉も、自身の耳も疑った。

「はい。紅葉千春です!」

声にもならない驚きは、ただただ彼女の後ろ姿を見送るだけで精一杯だった。

「紅葉……」

調査してわかったことだが、紅葉千春は、今回の標的「紅葉新一」の実妹であった。




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