出会い
町は閑散としていた。
まあ、そうだよな?
普通に考えてみれば、今この時期に外に出ようなんて考える方がおかしいだろう。
「千春が怒るのも無理ないか……」
しかし、そう思っても、俺は足を止める気はなかった。
別に陸上が好きだからとかそういうわけではない。
大会に出場しても最下位から数える方が早いくらいだし。
ただ……。
「目的が欲しいんだよな……生きる」
こんなことを思い始めたのは、いつからだろう。いや、考えるまでもない。
四年前のあの日。俺がまだ中学一年生だった頃。事故で両親を失ったあの日。俺は、自分が何故、生きているのかわからなくなった。
でも、俺のそばには千春がいた。
「そう。俺には、千春がいる。円口だっているじゃないか……」
だけどーー。
父さんと母さんが死に際に見せた微笑み。俺は忘れることが出来ずにいた。
きっと父さんたちは、俺が生きていたことに安心して最期に笑ったのだ。自分たちの未来を理解した上で。
俺にも出来るのだろうか。
そんな風に想える大切な人が……。
「何で、生きているんだろう?」
「フン。それを答えることは出来ん」
町は静かだった。道行く人も、行き交う車すらない静寂な町並み。
そんな中、俺の目の前に、一つの黒い影が立ちはだかった。
スシャン。何かを研ぐような、鋭い音がした。
キラリと怪しく光った得物は、間違いなく刀だった。そして脳裏に、千春たちが言っていた「連続通り魔殺人」のワードが思い浮かぶ。
「ただ、殺すことなら出来るがなーー」
その言葉を聞き終わるか終わらないか。そんな刹那に、俺は背を向け駆け出していた。
そして姿を眩ますかのように、手当たり次第に曲がり角を折れていく。しかし、どんなに駆けずり回っても奴の気配ーー殺気は消えはしない。
「っく!」
必死に。ただ闇雲に駆けていく。
心臓がこれでもかと脈打って、更に力強く。次第に足が速くなる。
練習の時でさえ、こんなにも速く走れたことはない。やはり追い詰められるとこうも違うものなのだろうか。
しかしーー。
「はあ、はあ、はあ!」
全速力で駆け回ること早一分。
既に限界が見えつつある。吐き気を催し始めた。酸欠だ。しかしそれでも走ってーー。
いや、俺はなんの為に走っているんだ? 当然。殺されたくないからだろう。だが、俺には生きる目的なんて……。
「無駄じゃないか……」
苦しさと心の弱さに負けたのだろうか。いや、それだけではない。
人としての何かが欠落しているのだ。
次第に足が動かなくなる。
一気に後方から奴が迫ってくるのがわかる。
俺はなんとなく目の前にあった曲がり角を折れた。
「ーー!」
その瞬間。俺は言葉を呑んだ。
そして再び、錆び付いた足を動かし、
目の前の少女へと半ばタックルするかのように抱きついた。
「キャッ!」
少女の短い悲鳴と共に、シャンという鋭い音がしたかと思うと、
「ぐわっ!」
俺は背中を刀で斬られた。
朦朧とする意識の中、俺は少女の姿をもう一度。目に焼き付けようと仰ぐ。
「赤い、ひとみ……」
そして俺は意識を失った。




