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出発
「千春、昨日何かあったか?」
朝。玄関先でのことだった。
いつものように制服に着替え、いつものように荷物を持って、学校へ向かおうとするフリをしていた。
「ううん。お兄ちゃんこそ、昨日は何もなかったの?」
可笑しな言い方だが、千春の言いたいことは分かっていた。
「ああ。何もーー」
そう言って、玄関の扉を開けて、外へ出る。そして学校とは正反対の道。
夏秋の元へと向かった。
「ニヒッ。どこへ行くんだ? 新一」
笑い混じりの声は、振り向かないでも誰だかわかる。
「円口。お前こそどうしたんだ? 学校は?」
「夏秋の所へ向かうんだろう? なら俺も行くぜ?」
「駄目だ。今日は遊びに行く訳じゃーー」
「ニヒッ。子供扱いすんなよ? なあ? それに俺はお前が思ってるほど普通じゃねえしな」
その言葉に何か不安を感じて、振り返った。
そこには、いつものように悪戯っぽく笑う円口がいて、安心する。
「自分のことは自分で責任を持つさ」
「ーーわかった」
俺と円口は、夏秋の家へと向かった。
その途中、
「魔女の思い通りにさせてたまるかよ」
と、円口が呟いたのには、気が付かなかった。




