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絶望
「好き、なんです……」
唇を放して、もう一度。
彼女は呟いた。
目の前には、頬を赤らめた千春がいる。いや、もう彼女以外は映らなくなっていた。
「城内さん……」
彼女は答えを待っている。早く応えなければ、答えを。
答え? 俺は何を答えようというのだ。
「ーーっ!」
彼女の施しも忘れて、想いも拭い捨て、いつの間にか紅葉邸を後にしていた。
「はあ、はあ!」
こんなに息を切らしたのは、久し振りだった。
住宅の屋根の上。
じっと夜空を見つめる。
ーー肩で息をする度に、色んなことが蘇っていく。
先ほど、置いてきた千春の顔。そして兄。それだけではない。あの女も、最凶とか抜かしている狩人のことも。
全てが渦巻いて、俺を追いつめていく。
「本当は……嬉しかったのだ。だが、それを伝える訳にはいかないだろう? それにーー」
千春に告白されてすぐ思い出したのは、
「何故、お前が出てきた? 魔女……」
問いかけたところで、月は答えるはずもない。
俺に異端者狩りとしての使命が果たせるのだろうか。
「っく! そおおおおおおおおお!」
絶叫は、夜の闇に呑み込まれていった。




