魔女との約束……
「円口さんは、何になさいます?」
「ニヒッ。俺は……って、何やってんだ!?」
俺こと円口は先ほど「災厄の魔女」に出会ってしまった。いや、待ち伏せされたと言ってもいい。
この女は、先日新一から紹介された恋人とのことだったが、そうではない。
本当の正体は魔女。それも人間も異端者も、そして狩人ですら殺しちまうようなイカれた魔女。
そんな魔女と出会った俺は、警戒を強めているはずだった。それが今は……。
目の前に巨大なパフェが運ばれる。
これは、俺なりの作戦だ。
この巨大なパフェが運び込まれた瞬間。
喫茶店にいた客たちの視線が、一気にこちらに集まった。
これでこの女の行動はある程度、制限されるはず。
「フフ。円口さんって、甘党なんですね?」
「ニヒッ。ま、まあな」
本当は、辛党なんだけどな……。
とりあえず、味わいもせずに、クリームだらけのパフェを口に押し込んでいく。
そんな光景をニコニコしながら、魔女はホットコーヒーを口に運ぶ。
「私からのお願いなんですが……」
唐突に、魔女が話題を斬り込んできた。
思わず、スプーンの手を止める。
「何だ?」
「私が魔女だということは、新一さんには黙っていてもらえませんか?」
「何で?」
「……恋人としていられなくなるからです」
思わず目を見開いた。
コイツ、何言ってやがる?
「お前が新一に近づいたのは、新一の命なんじゃないのか?」
「もしかして、円口さん。新一さんの異端者としての能力をご存じで?」
「もう昨日の内には調べたよ」
まあ。と驚いて、口に手を当てる魔女こと名切美月に嘘はないのか。
自然な反応に思えた。それとも嘘だらけで、何が本当かわからなくなっているのだろうか。
とりあえず。
「お前は、新一のこと――」
俺が聞くよりも早く。
「愛しています。だからお願いです」
沈黙。この女を信用するには、まだ早過ぎる気がする。
「私のことは、どうか秘密にしておいてください」
頭を下げ、じっとこちらを見つめる彼女の赤い瞳。
それを目にした瞬間。口から零れた言葉は、自然と。
「――ニヒッ。わかったよ」
俺は、知らず知らずの内に、彼女の願いを聞き届けていた。
「じゃあ、ここで」
「ゲプ。あー、じゃあ」
彼女――名切美月とは、喫茶店で一時間ほど話をしてからこうして別れた。
その話の内容とは、ほとんどがどこにでもあるような雑談。
異端者だとか、狩人だとか。
そんな難しい話はしなかった。
ほんとうに16歳同士の年相応の話をしただけだった。
「なーんだ、俺の心配し過ぎだったのかな?」
別に。異端者同士が付き合っちゃいけないとか、結婚してはいけないとか。
そんな決まりは誰も決めていない。
「俺が勝手に思い込んでいただけか……」
何でだろう? じゃあ、新一には本当に恋人が出来たのだ。
アイツに幸せが訪れるそう思うと、嬉しくて仕方ない。
だからだろうか。
「約束してほしい!」
俺は振り返って、大声で叫んでいた。彼女に向かって。
「新一のこと、大事にしてやってくれよ!」
だが、彼女は振り返ることなく……。
いや、一度だけ振り返った。
赤い瞳で、フフと冷笑して。
そんな彼女の笑顔を見て、冷や汗が流れた。
「ニヒッ、ヒッ……」
なんとなく早足になる。気が付くと駆け出していた。
そして、あまりの恐怖の余り、自宅である教会の扉を乱暴に開けて急いで中へ入った。
「はあ、はあ、はあ……えっ?」
教会の中に入れば、いつもの見慣れた光景が合って、安心できるはずだと思っていた。
何なんだよ……? これはああああああああ!
「うわあああああああああああああああああああ!」
教会の中では、俺の育ての親のマリーが血を吐いて死んでいた、
教会の中も、荒れ果てた状態だ。
その時、俺は思い出す。
「魔女……ぐわあああああああああああああああああ!」
俺の絶叫は、教会の中、響き渡っていた。




