悟り
昼休み。
朝の夏秋の様子が気になって、今まで注意して見ていた。
クラスメートたちは、さほど異変に気が付いてはいないようだが……わかる。
時折、見せる笑い方が、今朝と一緒なのだ。
歪な笑顔。ーーいつもの優しさは消えている。
だからだろうか。
「夏秋。いいか?」
教室の隅にいた夏秋を連れ出した。
「どうしたの? 新一」
別館の3階。一番はずれの場所に当たるこの場所には人気はない。
「夏秋、今日のお前はちょっと変だ。
何かあったのか?」
「……」
沈黙。それが答えなのはわかった。
「夏秋ーー」
「僕のことは放っておいてよ!」
夏秋の大声を聞いたのは、初めてだった。
でも……。
「放っておけないな。それは出来ない」
「どうしてさ? そんなこと簡単だろう? いないふり、見ないふりをすればそれでーー」
「そんなこと出来ない! 俺とお前は友達だから!」
つい大声を上げてしまった。
でも……。
夏秋に気持ちが届いたのかもしれない。
「新一……」
顔を俯け、涙声の夏秋の肩に、そっと手を置こうとした瞬間。
「ッハ!」
「っ痛!」
何かが手の平を切り裂いた。
見れば血が出ている。
そして夏秋の手にはカッターナイフが握られていた。
「夏秋?」
「ッハ! 随分と治りが早えじゃねえか?」
思わず、バッと手を隠す。
「そんなじゃ隠せねえよ? 異端者があ!」
俺はこの時確信した。
目の前のこの男はーー夏秋ではないと。




