二重人格
「夏秋さん、お久しぶりです!」
千春が手を挙げて、前方から来る男に話しかけた。
その様子に違和感はない。
その証拠に、道行く人たちにも、彼女にも、そして男にも戸惑いの表情がなかった。
しかし、それが俺にとっては戸惑う要因と成りうる。
どうなっている……。
見間違うはずもなかった。
確かに、今目の前にいるのは、
「やあ、こんにちわ。千春ちゃん。それと……?」
目の前で首を傾げる優男は、確かに鬼木双士だった。
俺と同じく、異端者狩り教会から派遣され、千春の兄。
紅葉新一を殺すよう命じられた狩人の一人。「最狂の狩人」が奴だ。
だが……。
目の前に立たれてことで理解した。
コイツは、鬼木であって、鬼木ではない。
雰囲気が、気配が、殺気がまるでない。
千春の輝かしさに当てられて、今にも消えそうなほど存在が薄い。
「あー、えっと、この人は……」
千春が頬を赤らめて、俺をどう紹介しようか迷っていると、男は、
「ああ。そうか」
と頷いて、この場を立ち去ろうとする。
「夏秋さん?」
「いいんだよ、邪魔しちゃってごめんね」
そう言って、微笑む。
「あ、あの、また家に遊びに来てくださいね! ご飯とか、食べましょう!」
「うん。楽しみにしてるよ、千春ちゃんの料理」
そして、俺の傍を通り過ぎようとした瞬間。
「――ッハ」
聞き覚えのある笑い声がしたかと思うと、
「お前が迷っていても、俺は殺す。例の男も、そこの女もな」
しばらく立ち尽くし、ハッとした頃には、もう男の姿は人の波に消えていたのだった。
「あの、どうかしたんですか? 城内さん?」
「あの男は?」
「夏秋さんです。お兄ちゃんの友達ですけど?」
「――そう、か……」
一体、どうなっている?
困惑が尽きないこの状況で、
「千春……」
更なる追い打ちをかけるように、
「面白いところで会いましたね?」
先ほどの男と入れ違いになるように、紅葉新一と名切美月が現れたのだった。




