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お誘い
「新一さん、いいですか?」
控え目な声が、廊下から聞こえる。
「はい。どうぞ」
名切さんが、軽く会釈をして、部屋に入ってきた。
彼女が入ってきただけで、部屋の香りが、花のように甘くなる。ここが自分の部屋だと忘れて、思わずドキッとしてしまう。
「もう大丈夫ですか?」
「ああ。はい。名切さんのおかげです」
「いえ。先ほども言いましたが、新一さんがこうなってしまったのは私のせいですから……」
「そんなことないですよ!」
静寂が訪れる。
じっと見つめ合うこと数十秒。
フッと、名切さんが微笑んだ。
「こんな言い合いをしていたら、また千春さんに怒られてしまいますね?」
「……ですね?」
お互いに笑い合って、目と目が合う。
じっと見つめているだけで、吸い込まれるかのような美しさに思わず頬が赤くなる。
「新一さん」
「は、はい!?」
思わず声が上擦ってしまった。
そんな俺の様子に微笑んだのか。それとも次の自分の言葉に微笑んだのか。
名切さんは「フフ」と笑って、
「今から、私とお出掛けしませんか?」
「え、あの、それって……」
「はい。デートです」
呆気に取られる俺を見つめてか。彼女はまたしても「フフ」と微笑んだのだった。




