憧れ
「もうー、お兄ちゃんたち、朝から息ピッタリだったなあ」
放課後。帰り道。
なんとなく今朝のことを思い出す。
嬉しそうな、恥ずかしそうな。そして二人だけにわかる秘密めいたものがあること。
見ているだけで、幸せそうな雰囲気が伝わってくるあの感じ……なんかお兄ちゃんにとって、名切さんが大切なのはすっごく嬉しい。嬉しいんだけど……。
「くあああ! なんかモヤモヤするなあ!心が」
もしかしてこれが!
「嫉妬って奴なのかなあ……いや、そんなことは。ああでも、私お兄ちゃんのこと好きだしなあ。ああ、もう!」
気付かぬ内に、竹刀をブンブン振り回していたらしい。
周りの人たちが大きく距離を空けている。
赤面しつつ、早足で曲がり角を曲がる。
「お兄ちゃんにとって、大切な人……名切さん」
知っていた。気付いていた。
兄が人との付き合いに距離を空けていることを。
決して内気ではない。どちらかといえば、社交的な部類である。でも、肝心なところでブレーキを掛け、壁を作る。
妹の私にでさえ感じさせるその壁は、きっと両親を失ってから。
兄にとって大切な人を作るということは、いつか失って悲しみに暮れるということ。だからこそ、今まで作ってはこなかった。そんな兄が……。
「お兄ちゃんにとって私は……」
そんな分かりきった質問をしそうなほど、今の私はなんていうか面倒くさい。
だったらいっそのこと。
「私も作っちゃおうかなあ? 大切な人……」
大切な人。その瞬間。浮かんだのは、
「城内さん……」
不意に出たその名前と顔に、頬を染める。
「何で、あの人のこと思い出したんだろう……?」
まだ一度しか会ったことはない。
それでも、感じるものがあった。
一目見て、兄と同じものを見た気がした。
優しくて、それでいて悲しい瞳。
思い出すと、心がキュンとなる。
「会いたいな……」
次第に足は、家路とは遠回り。
彼に出会ったあの公園へと向かった。
「まあ、いないよね?」
夕暮れ時。
噴水公園には、彼の姿はない。
一応、街頭の天辺を見てみても、いるはずもない。
でも、何故だろう?
なんとなく……どこかで見ている気がするのだ。
自然に足を肩幅まで広げ、大きく息を吸い込んだ。
何人かの人目は感じるが、気になどならない。それよりも今は彼に会いたいのだ。
「城内さーん!」
大声で彼の名前を呼んでいた。
何事かと、目を丸くする人たち。それでも更に、
「城内さーん!」
と続けた。
すると……。
背後に人気を感じる。
振り返ると同時に、
「何だ?」
と、城内さんが立っていた。
「……ハハ。本当に会えた」
「フン。もっと他に方法はなかったのか?」
「でも会えました!」
私の勢いに圧されてか。
「フン」
と鼻で笑う。
「それで、俺に何か用か?」
周囲をチラチラと見ながら、城内さんはどこか落ち着かない様子だ。
そうだ。確かに自分でしておいて何だけど、今、ここにいるのちょっと恥ずかしい……。
「あの、城内さん。私のこと……」
「紅葉千春だ」
覚えていてくれた……。
「はい! じゃあ行きましょう!」
城内さんの手を掴んで、強引に、引っ張るように駆け出す。
「何処へ行く?」
「デートします!」
そう言って、私は駆け出した。




