夢から現実へ
「Woooooooooooooooo!」
突然。どこからともなく狼の遠吠えがした。
――いや、この鳴き声には聞き覚えがある。
アイツだ。俺たちを殺そうとしていた、あの狼だ。
手を引いて駆けだす。
彼女の手を引いて……。
彼女?
不意に後ろを振り返る。
そこには誰の姿もなかった。
だから俺は――。
「名切さん!」
大声で彼女の名前を呼んでいた。
「はい? 呼びましたか? 新一さん」
「……ふえ?」
間抜けな声を出しつつ我に返る。
「名切さん!?」
「どうかしましたか? 新一さん」
「あ、いや……あはは」
名切さんの顔が目の前にあった。
一気に目が覚め、顔が赤面するのがわかる。
「顔が赤いですね? まだ熱があるかもしれません」
「え?」
名切さんがじっとこちらを見つめ、ゆっくりと顔を近づける。
額を当てようとしたところで、ピタッと止まる。もうお互いに視線を逸らすことなんて出来なかった。
「あの……」
「お熱の確認をしようとしましたが……このまま」
そっと唇を重ねた。
うっすらと目を開けると、頬を紅く染めた名切さんが目の前にいる。
息もかかりそうな距離のまま、
「今さら、恥ずかしがることもないのに……おかしいですね?」
フフっと頬笑む。
そんな彼女の照れ隠しが、可愛くて、そっと腰に腕を回しかける。
「名切さん、お兄ちゃんの具合どうですか?」
バッと扉が開いて、千春が顔を出した。俺と名切さんは、慌てて身を離す。
「お兄ちゃん! もう大丈夫なの!?」
「あ、ああ」
軽く手を挙げて答える。
「どれどれ~」
名切さんと俺との間に割って入って、千春は俺のおでこに額をくっ付ける。
「うん。熱とかは、ないみたい。でも……」
千春は、おでこを離して、怪訝そうな表情で見つめる。
「顔が赤いし、なんか鼻息? も荒いような……」
「そ、そんな訳ないだろう!」
目をパチクリして驚いていた千春だが「ふーん」と悪戯っぽく笑って、
「まあ、それだけ元気なら大丈夫かな?」
と名切さんに向き直る。
「名切さん、3日間もお兄ちゃんの看病ありがとうございました。今日はゆっくり休んでください」
「3日も!?」
「そうだよ。もう全然、お兄ちゃん起きないから、名切さん付きっきりだったの」
名切さんは首を振って、
「いえ。新一さんがこうなったのも私の責任ですから」
その瞬間。ウェア・ウルフとの激闘を思い出す。
「名切さんのせいじゃないですよ! アレは俺が!」
言い合いを始めようとする俺と名切さんの間に、
「ちょっと待った!」
と千春が割ってはいる。
「二人とも何があったかは、後でゆっくり聞かせてもらうとして……いいから早く休んで! お兄ちゃんは病み上がりだし、名切さんは寝不足でしょう! さあ寝た寝た!」
パンパンと手を叩く千春の姿に、
「これじゃあ、どっちが年上だか……」
「フフ。わかりませんね?」
俺と名切さんは、二人して笑った。
それを見て、千春はまた頬を膨らませたのだった。




