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魔女の狩人  作者: 秋
12/71

見逃し 過ち

「策に溺れたな、魔女」

とある学校のグランドに来ていた。

深夜ということもあって、他に人気はない。

目の前には惨状が広がっていた。

少年と少女が抱き合うようにして、血塗れの姿で横たわり、ウェア・ウルフと呼ばれる怪物は、今にもその二人に襲いかかりそうな態勢で静止している。

これが何を物語っているのかは、大方予想が付いた。

「フン」

まずはウェア・ウルフを斬って落とした。

これで大方の異変は消えた。

グランドの惨状は、教会に一任してある。

後は……。

刀を構える。

切っ先は、もちろん。

「生命の根元に至る鮮血。及び災厄の魔女。ーー狩る」

男の上に覆い被さる様に、眠っている「魔女」こと名切美月に切っ先を向ける。

後はこれを一振りするだけ。

そうすれば終わる……。

長年姿をくらまし、時には我が同胞にも深手を負わせた。

「貴様を許す訳には、いかない」

しかし……。

「何故、だ……?」

刀の切っ先が定まらない。

手が震えている。

「何を迷う必要がある? コイツは異端者。そして俺は狩人」

殺し、殺される側の立ち場。

何も迷う必要はない。

なのに……。

「異端者だと思っていた……」

だが、目の前の彼女の寝顔を見る。

そこにあったのは、スヤスヤと寝息を立てて眠るどこにでもいる少女だ。

殺意など、どこにもない。

そして何より、美しいと思ってしまった。これは魔女としての、才からか。生まれ持った美貌からか。

ただ一つだけ言えるのは、彼女の美しさに当てられて、俺には迷いが生じたのだった。

しかし、こんな絶好のチャンスは二度とない。

そんな想いだけが、刀を強く握らせた。

そして振り上げたその時だった。

「お願い……たすけて」

弱々しい声がした。

懇願だった。

聞くはずも、聞けるはずもない言葉が、彼女の口から漏れた。

そう。それだけだ。

その言葉に何の強制力も、まして魔力も込められてはいない。

それでも……。

「今回だけだ……」

俺は何を思ったのか。

踵を返して歩き出す。

振り返ると、先ほどまで居たはずのグランドははるか遠く。



「どうやら、行ったようね……」

ゆっくりと瞳を開ける。

視界には、星が瞬く夜空が映し出され、彼の者の姿はどこにもなかった。

ついでにいえば、ウェア・ウルフも消えていた。

どうして彼が、私たちを見逃したかはわからない。

もし原因があるとすれば、この容姿のおかげか。

「まさか、自分の容姿に感謝する日が来るなんて……初めてね?」

そう呟いて、ふと脳裏に何かが駆け巡った。

『――愛している』

先ほどの彼の言葉を思い出す。

チラッと見ると、血まみれになりながらも、その寝顔は安らかなものだった。

そっと彼に頭を撫でる。

「この気持ちが『嬉しい』というものならば……」

この容姿に感謝したのは、さっきので二度目ということになる。

そんなバカバカしいことを思いながら、

「まさか、ね?」

フッと微笑んでいた。



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