見逃し 過ち
「策に溺れたな、魔女」
とある学校のグランドに来ていた。
深夜ということもあって、他に人気はない。
目の前には惨状が広がっていた。
少年と少女が抱き合うようにして、血塗れの姿で横たわり、ウェア・ウルフと呼ばれる怪物は、今にもその二人に襲いかかりそうな態勢で静止している。
これが何を物語っているのかは、大方予想が付いた。
「フン」
まずはウェア・ウルフを斬って落とした。
これで大方の異変は消えた。
グランドの惨状は、教会に一任してある。
後は……。
刀を構える。
切っ先は、もちろん。
「生命の根元に至る鮮血。及び災厄の魔女。ーー狩る」
男の上に覆い被さる様に、眠っている「魔女」こと名切美月に切っ先を向ける。
後はこれを一振りするだけ。
そうすれば終わる……。
長年姿をくらまし、時には我が同胞にも深手を負わせた。
「貴様を許す訳には、いかない」
しかし……。
「何故、だ……?」
刀の切っ先が定まらない。
手が震えている。
「何を迷う必要がある? コイツは異端者。そして俺は狩人」
殺し、殺される側の立ち場。
何も迷う必要はない。
なのに……。
「異端者だと思っていた……」
だが、目の前の彼女の寝顔を見る。
そこにあったのは、スヤスヤと寝息を立てて眠るどこにでもいる少女だ。
殺意など、どこにもない。
そして何より、美しいと思ってしまった。これは魔女としての、才からか。生まれ持った美貌からか。
ただ一つだけ言えるのは、彼女の美しさに当てられて、俺には迷いが生じたのだった。
しかし、こんな絶好のチャンスは二度とない。
そんな想いだけが、刀を強く握らせた。
そして振り上げたその時だった。
「お願い……たすけて」
弱々しい声がした。
懇願だった。
聞くはずも、聞けるはずもない言葉が、彼女の口から漏れた。
そう。それだけだ。
その言葉に何の強制力も、まして魔力も込められてはいない。
それでも……。
「今回だけだ……」
俺は何を思ったのか。
踵を返して歩き出す。
振り返ると、先ほどまで居たはずのグランドははるか遠く。
「どうやら、行ったようね……」
ゆっくりと瞳を開ける。
視界には、星が瞬く夜空が映し出され、彼の者の姿はどこにもなかった。
ついでにいえば、ウェア・ウルフも消えていた。
どうして彼が、私たちを見逃したかはわからない。
もし原因があるとすれば、この容姿のおかげか。
「まさか、自分の容姿に感謝する日が来るなんて……初めてね?」
そう呟いて、ふと脳裏に何かが駆け巡った。
『――愛している』
先ほどの彼の言葉を思い出す。
チラッと見ると、血まみれになりながらも、その寝顔は安らかなものだった。
そっと彼に頭を撫でる。
「この気持ちが『嬉しい』というものならば……」
この容姿に感謝したのは、さっきので二度目ということになる。
そんなバカバカしいことを思いながら、
「まさか、ね?」
フッと微笑んでいた。




