魔女と狩人
魔女の狩人編
「ウフフッ。やっと見つけた」
こんなにも心の底から笑ったのは、いつ以来だろう。しかし、そんな些細なことでさえ過去を振り返るのが嫌で、思い出すのをやめた。それよりも今は、目の前の彼にただただ、感謝と敬愛の眼差しを送るだけだ。
「フン。その台詞は、そのまま貴様に返そう」
振り返ると、16歳くらいだろうか。
私とさほど変わらない男の子が、刀を持って立っていた。距離はそこそこに空いてはいるが、彼が私の予想している人物ならば、一瞬で詰めてくるだろう。だが、距離が無いに等しいのは、私を相手にしている彼も同じだ。
「今晩わ。ーー狩人さん?」
「フン。名切美月で相違ないな?」
どうやら互いに互いの正体は理解しているようだ。
「ウフフ。初めて出会ったのに、ドキドキもワクワクもないなんて……つまらない自己紹介ね? お互いに」
「フン。異端者狩り教会から、お前を殺すように指示が出ている。無論、あの男も同じだ」
彼の視線の先を追う……。
やはり、教会も彼を狙っている。
なら、手出しはさせる訳にはいかない。
「そう。でも彼を殺せば、あなたが彼にしたように……今度は、私がしてしまうかもしれないわ?」
「っく! 貴様ッーー」
狩人の男は、言葉を切って、身を翻す。
住宅街の屋根をピョンピョンと飛び跳ねていく。
「その赤き瞳。やはり心臓破壊の魔眼の使い手というのは、本当か。ーー災厄の魔女。名切美月……」
災厄の魔女……。そうね? この瞳の色は私が殺してきた人たちの血の色。
そう呼ばれても仕方のないことだわ。
「ウフフ……」
瞳に魔力を通すのを止める。
「ズルい。私のことばかり。ーーあなたの名前も聞かせてくれないかしら?」
冗談めかして言ったつもりだった。しかし、狩人の男は、しばしの沈黙の後、
「城内武」
とだけ答えた。
「ーー意外だったわ。素直なのね?
あなた……」
「フン。じゃあ、お前もお前の目的を素直に話したらどうだ?」
この男、話が通じるわね? 今まで会った狩人たちは、全くだったけれど。
「まだ、ダメよ。でも……」
髪の毛を一本。風に流す。
「ウェアウルフ」
呪文と共に、召還された二足歩行の狼。彼に片腕で抱かれ、一気に狩人との距離を詰めてもらう。
「今度、教えてあげる」
そう彼の耳元で囁いた。
そして、もう十体。彼を囲うようにしてウェアウルフを召喚した。
「だから、今日は退いてくれないかしら?」
「……」
無言のまま狩人の男ーー城内武は、立ち去った。
それを見届けて、安堵の息をつく。
「行っちゃった……」
先ほどまで見つめていた彼の姿はない。もちろん。その彼とは、狩人の男などではない。
もっと、ずっと……。
「愛おしい……」
彼の姿を思い浮かべ、気が付くと、微笑んでいた。




