魔女のおはなし
この世に生まれて数世紀。
人間は昔から差別や争いをやめない。
人間の書物にも出てくるような言葉だが、
本当にその通りだと思う。
そして、そんな言葉があるにも関わらず、
人間たちは差別や争いをやめない。
この俺だって、差別されてきた側の人間、もとい、魔女である。
「なーなーレミちゃーん。
ここの街で人気の喫茶店一緒に行かなーい?」
いつも懲りずに声をかけてくる、
この男も差別された側の人間、もとい、単眼族である。
単眼族とは言葉通り目が1つしかない一族。
姿形は人間なのだが、目が顔の中央に1つだけ。
しかもその目が大きく脳を圧迫するため、
とても短命と言われている。
この男はそんな差別される「単眼族」という種族を、
何やら魔法道具らしい赤いメガネを掛けて隠している。
なんでもこのメガネ、
単眼である容姿を双眼に変える変身アイテム的なものらしい。
「俺はあいつと、これからこの街でモンスター退治の依頼を受けに行くんだが。」
青い髪に緑の眼、双眼を装った男、もといソロを呆れた目で見ながら、俺はすいと遠くの方を指さした。
その先には、またもう1人の男。
こちらは深い緑色の髪をした男で、
何やら木造の家の前で老人と話をしている。
こちらに向けた背中には大きな剣を背負っており、
背丈はソロよりも高い。
その指の先をたどったソロは、
あからさまに不快そうな顔をした。
よく表情の変わる奴だと、なんとなく思う。
「また稼ぎに行くの?そんなの俺がギャンブルで倍にしてやるって。」
自信満々といった風にソロが胸をドンと右手で叩くが、
「そう言って前の街で身包み剥がされたのはお前だろ、ソロ。」
全くもってこの男、運がなさすぎるのである。
もう何度も有り金を借用書に変えて、
同じパーティーの仲間にボコボコにされている。
それなのに同じ過ちを繰り返すとは、
こいつ、学習能力がないのだろうか。
俺の一言で黙ったソロを置いて、
するりと大剣の男の方へと近づていった。
そろそろ話が終わる頃合いだろう。
案の定、
俺が踏み出した瞬間大剣の男がくるりとこちらを向いた。
「リッター、話はついたのか。」
「ああ、東の森の方に数体デカいのがいるらしいぜ。」
大剣の男、リッターは赤い目を楽しそうに細めてそう言った。
近づけば嫌でも見上げる形になる。
俺と一言二言交わしたあと、リッターは俺の後ろに視線を移して
「なんだ、お前もいたのか。」
「ひっど!?」
今更気づいたように
(いや、本当に今まで気付かなかったのかもしれないが)
目を少し見張った。
ソロはその言葉に大げさに反応する。
本当に、よく表情の変わる奴。
「リッターとレミちゃんでクエスト行くの!?
別にレミちゃんいなくてもリッターは1人で行けんだろ!
俺はレミちゃんとお茶しに行きたい!」
駄々っ子のようにソロが喚いた。
それに思い切り顔をしかめたリッターが、一言。
「あん?てめぇそのお茶する金誰が稼いでると思ってんだソロ」
「すいませんでした」
凄むリッターに縮むソロ。
こいつはなんで俺なんかに構おうとするのかが未だに謎だ。
こんな、前髪で片目を隠した、
感情表現も上手く出来ない根暗魔女なんかに、
なぜそうも構いたがるのか。
前に1度尋ねてみたことがあるが、その時にソロが言ったのは、
「だって、レミちゃん美人なんだもん。」
俺らのパーティーは
他のパーティーと途中合流したこともあり全部で9人いる。
が、俺より美人で可愛い子はたくさんいる。
むしろ私が一番底辺だとすら思う。
のに、こいつは俺にばかり声をかけてくる。
しかも、別段女好きというわけでもないらしい。
まったくもって謎だ。
正直、困るのだ。
俺は差別はされども、魔女狩りだと襲われはすれども、
真っ直ぐに愛を向けてくる者などいなかったのだから。
何をどう返したらいいのか、俺にはまったくもって分からない。
「そういうわけだ、お茶に使う金なんてない。
確かにリッターは強いが、
1人で行かせるわけにはいかない。」
ちらりと振り向いて、ソロにそれだけを返す。
他に何を返したらいいのかなんて分からない。
これ以上こいつに近づかれたら、もう困るどころの話ではない。
数世紀生きてきて、
唯一俺に分からないものを、こいつが運んできた。
まったくもって、迷惑な話。
「まあ、今晩クエストから帰ってきたら、
夕食の時、隣で一緒に食べても、いい」
それだけ言って、俺は森へ向かうリッターの後を追った。
その時、ソロがどんな表情を見せたかは分からない。
その時、俺がどんな表情をしていたかも分からない。
ただ少し、夕食が楽しみだった。
暇つぶしに書いた小説ですが、どなたかの暇つぶしにでもなれば幸いです。
出てきたキャラクター達は仲間内でそれぞれをRPGキャラ化したキャラ達です。
拙い文章ですが、読んで頂けただけで幸せでございます。
ありがとうございました。