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これは忍術の道具です。

 暇な休日の昼下がり。

 今日は来客の予定もなく、ただごろんとして休日を過ごす事に決めた。

 そう決めていた矢先、玄関のチャイムが鳴り、俺は誰だろうと? 覗き穴から訪ねてきた人を確認する。

 白と青の縞の帽子…あぁ、宅配便か。

 そう思って俺は判子を持って玄関のドアを開ける。

「こんにちわージャパン安全運送です」

 そういってお兄さんはぺこりと会釈する。

 俺は荷物の受け取り印を押して、その荷物を居間に運ぶ。

 荷物は桜花宛て。

「桜花ーなんか荷物届いたぞ」

 そういって桜花を居間へと呼び寄せる。

「ん、これは食べ物か?」

 おまけの霧雨も着いて来た。

「そうだといいな」

 俺は荷物を桜花に渡す。

「あ、これ私宛の新しい忍法用の道具です」

 へぇ…何の術なんだろう?

 覗き込んで見たものの、やはり解らない。

「何の忍法なんだ?」

「ん〜今からやってみますよ」

 そうだな、百聞は一見に如かずだしな。

「何の術なのだろうな?」

 よじよじと俺というでかい山に挑戦する霧雨を摘まんで肩まで一気に移動させる。

 なんというか…もう此処に霧雨が乗ってることは気にならなくなったな。

「では、行きます! 臨・兵・闘・者・皆・陣……」

 そう言っていつかの九字を切り出した。

 見るのは二度目だが、九字ってカッコ良いなぁ。

「裂・在・ぜっ…くしゅん!!」

 決まった。って決まってねぇ!!

 途中でくしゃみするなぁ。

 くしゃみの反動で桜花の指から紙が滑り落ちる。

 ひらりひらりと床に落ちる紙。床に落ちた瞬間、ぼわんと煙が辺りを包み込む。

「ッ!!げほ、けほっ!!」

 俺はその煙を吸い、思わずむせる。桜花も霧雨も同様だ。

「こ、今回のはやたらと……」

 煙が薄れ、その煙の中心には……桜花が居た。そして、その隣にももう一人桜花が居た。

「桜花様が二人!?」

 霧雨は俺の肩の上で驚いてる。

「ぶ、分身の術か?」

 そう言って俺は桜花の分身に触ろうとしたら……

「シュッ」

 そう言って俺の手をかわし、すれ違いざま、俺の腰の辺りを手で押して、一目散に外に出て行く。

「だぁっ!!」

 いきなり押された事で、俺は前面につんのめり常態になる。

「だ、大丈夫ですか忍殿!!」

 桜花が俺を立ち上がらせながら言う。

「あぁ、大丈夫だが、外に出たぞ、アレ」

 俺的にはもうほおって置きたいところだが、事態が事態なのでほおって置けないのがこの現状。

 俺はジャケットを上に羽織り、急いで外に出た。

「桜花ッ!外に出られたのはまずい…何処にいるかわかりやしないよ!!」

「手分けして探しましょう、忍殿!!」

 そう言って俺達は闇雲に駆け出した。


 俺は一人で思案を巡らせている。

「どうする?考えろ…何処に居そうだ?」

 よく考えろ、分身の術のベースは桜花だ。

 桜花といえば…方向音痴? くそ、余計にたちわるいじゃないか。

 俺は観念し、一度この街の地図を確認するべく、家へと向かった。

「人が……居るのか?」

 家に入るなり、俺は物音が聞こえた。

 そぉっと物音のした部屋を見てみると……

 居たよ、おい。分身桜花が。

 帰巣本能なのか?

 それとも俺達をかく乱させる作戦だったのか。

 桜花、霧雨を呼んで捕まえよう。

 俺は桜花、霧雨と合流。ひっそりと包囲網を作り、中に居る分身の桜花を捕まえるべく、俺達は作戦を開始した。

 まず俺が玄関に待機。霧雨、桜花が指定の場所に待機、合図と同時に一気にかかる。

 何とかして一画に追い詰められれば。

「行くぞ!!」

 そう言うと俺達は一斉に油断しきっていた分身の桜花に飛び掛った。

「くッ!!」

 分身の桜花は油断していたのか、簡単に俺達で囲む事が出来た。

「よし、もう逃げられないだろ」

 じりじりと俺達は距離を詰める。

「ど、どうしてお前達わかったのか?」

 距離を詰められてあせあせと言う。

「いや、勘だ…というか偶然?」

 俺はそういうと、分身の桜花はがくりとうなだれる。が、一瞬の隙をついて、桜花を掴んでグルグル回った。

「な、桜花様に何をする!!」

「うわ、まわる!!」

 回り終わった桜花二体は横に並んでる。

「おぉ、どっちが桜花様かわからないぞ!!」

 霧雨はおろおろと二人を見比べている。

「手前ですよ、忍殿、霧雨!!」

「手前ですよ、忍殿、霧雨!!」

 よくあるパターンだ。

「偽者はこっちです!!」

「偽者はこっちです!!」

 二人して指差す。

「こ、コーサカ…どっちが…?」

 いや、俺人目でどっちが偽者か解ってるんだが。

 この術、桜花の失敗で分身を作り出したのだが、顔、服装、身長は同じ…決定的に違うところがある。

「お前が分身だ」

 そう言って俺は二人並んだうちの分身の桜花の腕を掴む。

「そんなことないです、忍殿、よく見てください!!」

 分身の桜花はバタバタと手を振り、言い訳を始める。

「それは残念だが、俺には全てのネタは解ってるんだよ、悲しい事に」

「こ、コーサカ、ほ、本当にそれが桜花様なのか?」

 実にフガイのない式神だ。

「なぁ、霧雨。お前本当にわからない?」

 俺は霧雨の首根っこを掴んで二人を見比べさせる。

 首根っこを捕まれた霧雨は『ひゃん』と微妙な声を出しながらも二人を見比べる。

「お……おぉ!!」

 霧雨もこのトリックに気がついたようで、本物の桜花を指して『こっちが桜花様だ!』と名探偵の如く声高らかに宣言した。

「ふふ、拙者にはわかったぞ、確かに偽者は桜花様そっくり……でも桜花様に仕える拙者には通用せん!!」

 確かに言っていることは格好いいが、言うのが遅すぎ。

 今、不等号で桜花のことを理解しているのを比べると……

 俺>>>霧雨

 とかなり差が出てしまったな。

 さて、種明かしとでもいこうか。

 まず根本的なところから。

 分身の術てのは俺は忍者じゃないから解らないけど、まぁ兎に角自分が二人も三人も居るように思わせるのが目的だと思う。

 それを踏まえた上で、二人をよく見てみよう。

 顔は瓜二つ。

 これで双子ですと言われれば信じてしまうほど瓜二つである。

 で、次にその術を使うシチュエーションを考えてみよう。

 街中でいきなり分身を出しても、一体何をするのか、できるのかすら想像つかない。

 一般的な論理からいくと、分身とは自分の姿を増やして、対峙する相手をかく乱させたり、 分身を囮にして自分は身を隠す時に使うだろう。

 仮に対峙したときに明らかに、一部分だけ違ったらどうなる?

「えっと、分身の桜花、お前はほんとよく出来ている…でもな、中途半端な術の失敗のために、お前の一部分は……」

 そう言って、俺は分身の桜花の胸を指す。

「あ……」

 固まる分身。

 そりゃそうだろうな。

「それにしてもコーサカ…お主も好き者よのう……」

 くっくっくと、袖で口元を隠しながら俺を小突く霧雨。そして俺の肩からずり落ちそうになる。

 分身の桜花は観念したのか、その場にへたりと座り込んだ。

「し、忍殿……こ、この分身の処遇は……」

 桜花はおろおろと、俺の判断を待つ。

「秋桜、お前はどうしたい?」

 そう言って俺は分身の桜花に手を差し伸べる。

「ど、どういうつもり?」

 分身の桜花は俺の言葉が正しく理解できなったのか、腰を上げ、一歩後ずさった。

「だから、秋桜はどうしたいと聞いてるんだよ」

 桜花と霧雨は押し黙ったまま、事の流れを見守っている。

「き、決まってるだろう、できるものならこの姿のまま過ごしたいに! 折角外で動けるカタチを得たんだ、それをみすみす手放したくはない!」

 力強く、自分の意思を吐き出す分身の桜花。

「じゃぁそれでいいじゃないか…俺はそれが秋桜の意志ならば、それを受け止めるよ」

 そう言った瞬間、桜花が声を上げた。

「し、忍殿、いいのですか!?」

「あぁ、こうなったのも親父が桜花を此処に来るように言ったのが始まりさ、自分がまいた種だ、それぐらいは許してもらうよ。それに、こうまで似てるんじゃ桜花、多少は情ってもんが湧くだろ?」

 そんなこんなで我が家にもう一人、居候が増えた。

「某は貴方を主とし、忠誠を誓います」

 分身の桜花…いや秋桜はいつか見た、あの忍者ポーズでそう言った。

「ま、そう硬くならずに、自分のやりたいようにやりなよ」

 公太郎への言い訳を考えるのがまた面倒になったぞ、これは。ま、でもこうなったのも何かのサダメ。

 そんなことを考えていた俺だが、この時点で俺の知らないところである計画が動き出していた。


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