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俺の休日。

 俺は本日、日曜日を満喫するつもりだった。

 高校生の俺が考える休日を満喫したと思えるのは次に挙げる例である。

 まず、昼前又は昼過ぎまで寝る。

 これは休みの日の正しい満喫の仕方だと思う。

 そして、暇そうな友人宅に乗り込む。

 で、早めに風呂に入ってリラックスをする。

 大抵風呂に入るのは夜で、窓から外を見ても、つま先から身体を洗ってもなんかいつもと変わらない。だが、夕方ぐらいか、十六時頃に風呂に入ると全く違った気分になれるのである。

 逆に、無駄にしたと思える日曜日の過ごし方は……

 まず、寝過ごして起きたら夜だった。これは経験した方も多いだろう。

 次に、親族に無理矢理どこかへ連れて行かれる。

 例えば、買い物に行こうとか、ドライブに行こうとか。


「忍殿? どうなされたんですか?」

 俺の横を歩いている忍者が聞く。

 いや、今はシーパンにシャツにジャケットを着ていて、そこらを歩く同年齢の女の子と外見 は変わらないから、どちらかといえば密偵?

 まぁ、俺はそんなに忍者の種類には詳しくないから、正確にどう呼ぶかは自信ないけど。

「こらこら、コーサカきびきび歩けぇい♪」

 そして、生意気にも人のワイシャツの胸ポケットに入ってるお荷物が急かす。

「おい、霧雨。お前、自分の足で動かないで運んでもらってるんだ、感謝しろ、俺に。というか移動賃とるぞ、このやろう」

 俺はジャケット下のワイシャツに入ってる式神に言う。

「な、何を申す、コーサカ!!お主の様に拙者はでかくないのだ、お主の何気ない一歩は、拙者にとっては大きな一歩で、私の一歩は小さいが、人類にとっ……」

「船長オツカレ」

 話が長くなりそうなので携帯のバイブレーション起動、胸に押し当てて五月蝿い式神を黙らせる。

「しっかし、桜花をベースにしているこいつは、どっからどー見ても桜花をベースにしたとは思えないんだけどさ」

 俺は桜花を見る。

 そして一部分だけ見て、ふっと鼻で笑う。

「さっきの笑いは何だ!? 拙者達に対する侮辱か!? 脂肪が多い娘子のどこがいいのだ!!」

 霧雨は自覚があるらしく、俺の胸をつまむ。

 ベースの桜花は、自覚がないらしく『何のこと?』といった顔で自分と霧雨を見比べてる。

「はぁ、なんでこんな日曜日に二人と一枚で買い物に行かなきゃならねぇんだよ」

 俺は右手で頭を掻く。

 そう、事の始まりは俺が買い物に行こうとした時だった。

 俺が外に出るよう着替えてると、霧雨が桜花の部屋……まぁ、押入れだが。

 とにかく、其処の戸を開けて、上半身裸の俺の身体を見て絶叫。

 その叫び声を聞いて桜花が部屋に入ってきてまた絶叫。

 子供じゃないんだから男の上半身裸見て叫ぶなよな。

 そんなのでは海に行けやしないぞ…と思いながらも外に行く旨を話した。

 すると、霧雨が『拙者も連れてゆけ!!』と駄々こねて、それを見て桜花は『主の街徘徊時には影となって付いてゆき、危険から守ります!!』と言い出して。

 気がついたらこの状態。

 まずは桜花に一つ。

 お前影だろ、実態の横歩くなよ。

 そして霧雨に一つ。

 お前自力で歩け。

 まぁ、声には出せないけどさ……

 ほら、色々と五月蝿くなるからさ。

「あ、此処です忍殿!! 昨日、不覚にも迷って辿り着くのに時間が掛かった建物は!!」

 桜花は眼前にそびえ立つ建物を指差して言う。

「ふむ、こんなに入り組んだある場所にある隠れた店か。さすが拙者が見込んだだけのことはある」

 霧雨はうんうんと一人頷き言う。

 お前らアホの子か?

 このデパート、家の前の道を直進数分だぞ。

 しかも家からだと遠くだが見えるし。

 桜花は何をやって迷ったか…非常に俺はそれが知りたい。教えてくれ、どうやったら直進で、建物見えてる場所に行く時に迷うかをさ。

 霧雨、お前は俺のどこを認めたのだ? はっきり言って二人ともちょっとずれてるぞ。

「まぁ、なんだ…中入るか」

 俺はデパートの自動ドアを潜る。


 デパートの中は空調が効いてるのかそうでないのか解らない室温だったが、不快になる程ではなかった。

 俺は早速最上階へとエレベーターを使って上る。

「あれ、忍殿? 入用なのは食料品などではなかったのですか?」

 桜花は戸惑いながらも俺について来る。

 向かった先は衣料品売り場。

 まずは安物の服を三、四着ほど買い物かごに入れる。

 もちろん俺の着る服。

 夏物をそろそろ準備しておかないと、すぐに夏になってしまい、暑さに負けて外に出ることが極端に少なくなるから、今のうちに早めに準備しておく。

「おい、コーサカ。お主服など買うのか!? それならこっちの上着を買え♪」

 霧雨は白いジャケットを指差して言った。

 そのジャケットはポケットが少し大きめに作られてあり、生地自体が硬めにできていて、風 などではためかないような感じの服である。

「霧雨…まさかとは思うがこれ、お前が入るのに丁度いいからとかそんなのじゃないよな…」

 俺は服をつかみながらそう言った。

 それを聞いた霧雨は焦りながら否定をした。絶対図星だ。

「あー桜花、そういえばお前も何か買えよ。出かけるたびに俺の服使われては」

 俺は財布の中身を確認しながらそう言った。

「え、手前もいいんですか!?」

 桜花は表情を輝かせながらそう言った。

 服の一枚や二枚でそんなに喜べるもんだなっと俺は桜花を見ながらそう思った。


 その後、桜花はいくつも服を見ては俺に似合うかどうかを聞いてきた。

 俺にそんなのを聞かれてもどう感想を言っていいのか解らないし、それなら同姓で一応女の霧雨に聞いたほうがいいと思うのだが。

 霧雨は霧雨で明らかにご機嫌斜めだし。

 そりゃ人形の服なんて売ってないからなぁ。

 俺はこの二人と買い物に来たことを後悔した。

 桜花に何かを買って、霧雨に何も買わないというのも気が引け、結局俺は白いジャケットも購入するのだった。

 そして今はデパートの屋上でベンチに座ってアイスクリームを食べている。

 今日だけで諭吉さんが大量に実家に帰ってしまったが、致し方ないことで、親父にその辺はどうにかしてもらおうと考えていた。

「こーら、コーサカ! もう少し手を上げい!!」

 買ったばかりのジャケットの胸ポケットに霧雨は入り、アイスクリームを俺に持たせるというなんとも贅沢なことをしている。

「霧雨、忍殿をそんなにこき使っては…」

 桜花は俺を心配して、霧雨に注意を促す。

 でも、霧雨がアイスクリームを自分で持つのはかなり無謀なことで、自分の身体以上あるものを持つのはきつそうだから、文句を言わずに持ってやる。

「ふふ、コーサカお前今すごく嬉しそう…というかなんとも言えぬ優しい顔つきになっているぞ♪」

 霧雨はポケットから俺の顔を見上げてそう言った。

「そうですね、忍殿。なんかいいことでもあったのですか?」

 桜花も霧雨と一緒になってそう言う。

「そう? 俺はいつもと変わらないと思うけど?」

 そうは言ってみても、自分でもすごく懐かしく、胸の真ん中辺りがやさしく締め付けられるような感じはある。

 親父とお袋で昔、こういうデパートの屋上でこうやってアイスクリームを食べた思い出が甦っている。

 こんなこと思い出すことはなかったのだが、ここ最近。

 というか二日前あたりから俺はこういう感情ばかりが思い出すようになっていた。

 自分でもその原因は解っている。

 桜花、霧雨とこうやって触れ合っていることで、何年も昔の感情を思い出しているのだろう。

「ありがとな」

 俺はそうつぶやくと、勢いよくベンチから立ち上がり、荷物を持って桜花と霧雨に『後は食料品買って帰ろうか』と言った。

 霧雨は『今何を申した!?』と俺に問い詰めてきたが、そこはスルーし、建物の中へと入っていった。

 まぁ、こういう休日も、たまにはいいか。




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