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襲撃忍者が出た…

 桜花が第二段階終了の突っ込みどころ満載のメールを貰って一週間が経つが変わったことなど何一つなく、いつもどおりの毎日がゆるゆると流れてゆく。

「桜花、霧雨、秋桜ー学校行って来るなー」

 いつもの制服に身を包み、俺は家を出る。スニーカーのつま先で地面を蹴り、靴に足を入れているときにかしゃりと何かを踏みつけ、足を滑らせた。

「あぶね、何か踏んだぞ?」

 よくよく地面を見てみると、玄関の扉先に三角形の一角を合わせたような妙な形をした紙が転がっていた。

「小学生の遊んだ後か。俺もそうだったけど、小さい子のやる遊びはわけわかんないな」

 靴の底でその紙を排水溝の溝まで滑らせる。こうしておけば掃除当番の家の人が捨てるだろう。

 しばらく通学路を歩いていると見知った後姿を見つけ、早歩きでその後を追う。

「よ、公太郎」

「うぃーっす、忍」

 公太郎と合流し、並んで学校を目指す。

「あ、あのカラス今日も居るな」

「ん? どのカラス?」

「ほら、アレアレ。コンビニの看板のすぐ近くの電柱に居るカラス」

 言われたとおりに電柱を見るとカラスがじっとこちらを見つめていた。

「よく他のカラスとの違い解るよな、俺全くわかんないよ」

「いや、俺も見分けなんてついてねーよ。あのカラスいっつも其処に止まってるんだよ」

「ま、どのカラスもいかにゴミを漁るかを考えて生きてるからね。あの場所だと結構開けてるから餌を探しやすいんだよ、きっと」

 都会にしろ、田舎にしろカラスの知恵は恐ろしい。人がどんなに考えてもカラスも、それに対する対抗策を編み出してくる。

 まぁカラスの気持ちも解らないではない。こうやって決まった時間に出る残飯などを漁ったほうが楽に食べ物にありつけるし、街にはカラスの食べるような小さな生き物はあまり居ないのかもしれない。

「あ……」

「どうした、忍?」

「いや、其処に落ちてる紙なんだけど、ウチの玄関先にも落ちてたんだよ」

「はぁ? なにそれ」

 公太郎は道の端に落ちていた紙を拾い上げ、見つめる事数秒。

「変なの」

 紙を道端に捨てた。

「最近の小学生ってこういうの好きなの?」

「何故それを俺に聞くんだよぅ、忍ぅ…」

 そんな話をしながら公太郎と学校へ行き、いつもと変わりない授業を六時間受けた。

「つっかれたー」

 放課後の教室で俺や公太郎と馬場は開放感を味わう。

「こんな授業で疲れたーなんて言ってたら社会に出たらもっと苦労するわよ? 別に私の知ったことじゃないけど」

「ツンデレ委員長……それは言ってくれと言ってるようにしか聞こえんのだが?」

「そうそう、ツンデレですよーって言っているようなもんだよ」

 公太郎と馬場は一日一回は委員長をツンデレと言わなければいけないようで、毎日のように委員長を捕まえてはツンデレと言っている。

「だから私はツンデレじゃないって! 勘違いしないでよね、あんた達が社会の波に飲まれてもくじけないように……」

「ツンデレ委員長、それ以上口を開くとまたツンデレだって言われるよ、ツンデレなんだからしょうがないっちゃしょうがないけどね」

「貴方も周囲にツンデレツンデレって広めている一角なのにねぇ……」

 い、怒りのオーラが見えるような気がする。

 超宇宙人1は怒りの力でなったような気がする。で、超宇宙人2はそれを上回る力があると聞いた。

 そうか、あの大先生はこの事を言いたかったのか! 怒りのツン。それを越えればとてつもない破壊力をもつデレ! 世の中はツンデレで出来ているんだなぁ。

「何かよからぬことを考えてる気がするわ……」

 うぉ、委員長…流石。貴方の周りに黄金のオーラとスパークが見えます……。

 そんな委員長の気に当てられたのか、窓の外にいたカラスが鳴き声を上げて飛び去っていった。

「委員長、カラスを気で追い払うとは」

 俺たち三人はマジマジと委員長を見ていると、唐突に変な声を出した。

「い、今カラスが…消えたわよ!?」

『……』

 馬場が鞄を持って立ち上がる。それにつられる様に俺と公太郎も席を立つ。

「委員長ー。そのネタもう古いぜ、肝試しに行ってもう一週間だぜ?」

「そうそう、アレから何にもあってないし気にするだけ無駄だって」

「じゃ、委員長俺らもう帰るね」

 三人並んで教室を出て、扉を閉める。

「ちょっと、嘘なんか言ってないわよ! だったら調べに行きなさいよーーー! ちょっと、無視するとほんとひどいんだからね!?」

 とまぁ、なにか背後から聞こえるけどそれは無視して歩き出す俺ら三人。


 馬場達と別れ、家に帰ってくると夕飯のいい匂いがしてきた。

 ほんとちょっと前までは考えられなかった事だ。あの日の夜、俺の選んだ道は間違いじゃなかったと思う。

 今までいろんな事があって、桜花達と一緒に居る時間は短くても何年分ともいえる思い出が一杯俺の中に残っている。

「お帰りなさい、忍殿。もうすぐで夕飯の準備が出来ます」

「おーう帰ったかコーサカ。何か土産はないのかー?」

「む、馬鹿霧雨、主人たる高坂殿になんと言う言い草、某が誅してくれる!」

 この家は言葉使い一つで命はとられません。

 で、この秋桜と霧雨は仲が悪すぎる。性格そのものが合わないというか、なんと言うか。

「こーら、霧雨に秋桜、ご飯抜きにするよ?」

『ごめんなさい』

 二人同じタイミングでジャンピング土下座。仲がいいのか悪いのか。

「あーそういえば俺まだ全然桜花らの事知らないよ。そもそも忍者の養成所ってどうなってんの?」

 桜花は箸を置き何かを思い出すように語りだした。

「まず、未熟な忍者達には第一段階目の修行としてお師匠様が付いて身体を鍛えるのであります」

 まて、今まで気にならなかったんだが、何なんだよマジで。忍者が今時必要とされる職とは思えないが。

「色々と突っ込みたいところはあるが…お師匠様ってどんな人?」

 そう聞くと桜花はガチガチと携帯のバイブレーションより激しく震え始めた。

「お、お師匠ひゃまは…お、おひょろしい人です…あ、アレは人じゃありまへん!?」

 相当ヤバイ人なのだろうか…お師匠様って。というか何語だよ桜花。

 そんな気まずい空気の中、桜花の携帯が喧しく鳴り響く。

「珍しいな、桜花にメールか電話なんて」

「そ、そんな、手前はそんなに友達居ないように見えるんですか!?」

「ああ」

「うむ」

「うぬ」

 三人とも同じタイミングで頷くと、桜花は体操座りをして地面にの字を書き始めた。

「めめ、メールを見ようよ、桜花!」

 慌てて俺達は桜花を元気付け、メールを読ませる。

 メールを読むたびに桜花の顔色が悪くなる。まさか絶交メールなのか?

「どうした?」

「は、はい、それが……」

 桜花は正座をし、こっちを見つめる。ちょっと目のやり場に困る。

「実は、隣の市に居る私の友達忍者からのメールで、襲撃忍者が出た…との事」

 まて、激しく待て。友達忍者、襲撃忍者ってマジなんだ!? 何でもかんでも忍者に結び付けてねェか、おい!?

「とりあえず友達忍者はわかるが、襲撃忍者って……」

「その名の通り、忍者を襲う忍者です。この第三試験や第二試験で出てくるという話で…」

「な、何が目的なんだ、その襲撃忍者は?」

「す、すいません。手前も其処まで知らず、ただ襲ってくるということを噂で聞きましたので……」

 皆が桜花に詰め寄る。桜花も其処まで知っているわけもなく、言葉に詰まる。

 隣の市でそれが出たとなると、対策を考えなくてはいけないのか?

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