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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

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安楽死ボタン

作者: 白銀 飯白
掲載日:2026/03/06

この作品はフィクションです。


この作品は現代を舞台にしていますが、実在する企業、人物、出来事とは関係ありません。




「死にたい」

「また言ってんの?お客様に聞こえたらどうするの?」


ファミレスでのバイト中、店長に咎められる。

ずっと「死にたい」という言葉が口癖になっていた。


「あー、すんません」

「はぁ……もういいから。洗い物してて」

「……ウス」


いつからだろう。こんなにもずっと鬱々としてしまうようになったのは。

10年以上前はまだ夢もあった。芸人になって、みんなを笑わせたいと思ってた。

養成学校に入って、コンビ組んで……芸能事務所に入って。そこまではよかった。

でも仕事は来ないし、たまにあっても劇場の裏方。地方の営業に行っても大して笑いは取れず。賞レースに挑戦したこともあったけど、予選敗退を繰り返し……相方はそこで諦めて実家に帰った。

その時に俺も諦めてたらまだよかったのかもしれない。なまじ突っ張って踏みとどまろうとしてしまったのが大間違いだった。

ピンになっても仕事は増えず、後輩が売れていく様をまざまざと見せつけられて。挙げ句の果てには長年付き合っていた彼女にも別れを告げられた。

流石に心も折れて、就職活動を始めたもののその時には三十路も越えていた。30過ぎの芸人崩れなんかどこの企業も正社員で雇ってくれるわけもなく……今は芸人時代から働いてるファミレスでバイトをして食い繋ぐ日々。

情けなくて、先行き不安で。


「……はぁ、死にたい」

「あっ、先輩!店長がもう上がれって言ってましたよ」

「えっ、もうそんな時間?」

「はい!あとは自分が代わるんで!お疲れ様でした!」

「あー、うん。お疲れー」


考え事をしながら溜まった洗い物を片付けてたらもう上がりの時間だったみたいだ。

さっさと着替えて、帰ろう……。









─────────────────








帰りの電車を待っているとき、ぼんやりと考えることがある。

電車が来るタイミングで飛び込めば、楽に死ねるのだろうか。でも、多大な迷惑がかかる。あとめちゃくちゃ痛そう。

死にたいとは何度も何度も考えたことがある。何回も電車に飛び込む妄想をした。多分妄想の中なら軽く100回は死んでる。

『死ぬ 楽な方法』とかで検索したこともある。でもどれもピンと来なかった。

飛び込み自殺は他の人の大迷惑、首吊りは苦しそう、練炭も苦しそう、包丁で刺すのなんか場所が悪けりゃただ痛いだけで死ねなさそう。薬のオーバードーズもめちゃくちゃ気持ち悪くなりそう。

どうあっても、自分で死ぬにはハードルが高い。


考えながらSNSアプリ【TwiXツイクス】を開く。今日は金曜日。毎週この曜日にはやることがある。


「『今週も始めよう。 #国は安楽死制度を作れ #ツイデモ』……送信っと」


俺はTwiX内で国に対して安楽死制度を求めるデモを主催していた。このデモはなんだかんだ規模が大きく、トレンドにも上がるくらいだ。


『安全に死ぬ権利をよこせー! #国は安楽死制度を作れ』

『こんなに死にたがってる人が多いのに何故安楽死制度を作らないのか、コレガワカラナイ #国は安楽死制度を作れ』

『このタグ使ってるやつ頭おかしいんじゃねぇの。毎週毎週タイムラインに出てくんの目障りなんだけど #国は安楽死制度を作れ』

『重病患者とかに限定する、だったら賛同できるけどこのタグ使ってる大半は自分が死ぬ為にそれ言ってんだよな……アホくさ #国は安楽死制度を作れ』


うーん、賛否両論で大いに盛り上がって結構結構。

盛り上がれば盛り上がるほど、国は無視できなくなるはずだ。否定的な意見でもタグを使ってくれるならそれはもうありがたいことこの上ない。

そうこうする間に電車が到着した。座席に座り、デモ開始の投稿に付いたリプライを確認する。


『いやわざわざ制度化求めんなしwww勝手に死んどけアホwww』

『包丁で大動脈切ったら眠るように死ねるらしいですよ?w』


悪意に満ちたリプ来てんなぁ。

ま、こちらのやってることは特に規約違反してないしお前らが凍結されるんですけどね。


「『暴言で報告しときますね』『自殺教唆で報告しときますね』『死にたがってる人にわざわざ絡みに来るのは相当人生楽しそうで羨ましいですね』……ふぅ」


つらい状況で死にたがってる人たちを笑いものにするのは許せない。何故、こんなにつらい思いをしながら生きてるのに安らかな死を望むのを否定されなきゃならないのだろう。

こういう悪意のあるリプは別段珍しくもない。なんなら毎週絶対についてくる。

それだけ関心があるということだろうか。それならハッシュタグ使ってくれよな。


レスバを繰り広げていると電車が自宅最寄りの駅に到着する。アンチをブロックしてスマホをしまう。

酒でも買って帰ろうかな……などと考えながら帰り道を急いだ。








──────────────────







帰宅し、諸々の用事を済ませてPCの前に座る。

覆面を着けて、ウェブカメラの角度を整える。

よし、準備完了!


「ばんわっすー。今週も安楽死デモお疲れでしたー。トレンドランキングは……13位!最初に比べると相当伸びたよねー」


ツイデモをやった日の深夜0時頃、俺はデモの規模の報告がてら雑談配信をしている。この配信中に、TwiXのトレンド入りのスクショと安楽死できなくて苦しんでる同志の悲痛な叫びの投稿のスクショを首相官邸ホームページのご意見フォームに送りつけるのだ。これを毎週、ずっと繰り返している。


『お疲れ様でしたー。今日もめちゃくちゃ死にたいこと多すぎて鬱です』

『彼女にフラれてもうめっちゃ死にたいんすよー』

「わかるわー。俺も長年付き合ってた彼女にフラれたときもうヤバかったもん」


コメント読み上げソフトの声を聞きながら送りつけるスクショをまとめて、コメントにも返事をする。

死にたがってる仲間達とダラダラ話すのが最近のささやかな楽しみになっていた。

首相官邸への送りつけを完了させて、適当に雑談していると


『お初ですー。ちょっと聞きたいことあるんですけどいいですか?』

「え、初見さん?……どうぞ」


丁寧な口調の初見さんがやってきた。

だいたいこういう手合いは質問とは名ばかりの攻撃を仕掛けてくる。自分が正しいと思い込んで安楽死制度を作れデモを叩いてくるのだ。警戒を強め、想定できる問答を頭の中で作り上げる。レスバと違って配信だから修正は利かない。この瞬間が一番緊張する。


『ここに集まってる人達って、死にたいんですか?』

『そうだよ』『そりゃそうよ』

「まぁ、そうだね。世の中苦しい事だらけでもう疲れちゃったからさ」

『じゃあ何故、まだ生きてるんです?』


ほらきた。

この初見さんは、世の中に絶望したなら手段を問わずにさっさと死んだら?って言いたいタイプだろう。そうできるならそうしてんだわ。


『別に責めてるってわけじゃなくて。なんでかなーって。死ぬ一瞬だけ我慢したらよくないですか?』

「一瞬で死ぬんならいいけどね。死ぬのに失敗したら?とか考えたことはない?」

『自殺なんてしようと思ったことがないので』

「じゃあもう君にはわからないことだと思うよ」

『失敗したってことですか?』


痛いとこを突いてくるな。

確かに、自殺を試みたことはない。いや、厳密にはあるといえばあるのだが、結局踏みとどまってしまっている。だって痛いの嫌だし……


「……いや」

『じゃあやってもないのに失敗した時のことを考えてるんですか?』

「そりゃ考えるだろ。みんなもそうだよな?」

『死に損なったら面倒だしなー』『主さんが試したことないのが意外』『失敗談とか聞いてるとどうしても考えちゃうよなぁ』『だから確実に安らかに死ねるように安楽死欲しいんだよね』


みんなに賛同を求めると一気にコメントが増える。やっぱり基本的にここのリスナーはわかっている。中には俺が自殺を試みていないことに驚いてる人もいるみたいだが……まぁそんなことは重要じゃない。


「なんでまた初見さんはそんなこと聞くのさ」

『職場の先輩がなんかことある毎に死にたい死にたいと言うから、なんでなのかなぁって思って。リスカ痕とかも無いし死にたいっていう割には死ななそうだし』

「別に自殺する人はみんなリスカするわけじゃないと思うけども……あと、死ななそうってのは、その人がまだ死んでないからそう思うだけでしれっと翌日には死んでるかもしれないよ?」

『そんなもんですかね。あ、あともう一つ参考までに聞きたいんですけど』

「うん」



『仮に今すぐ安楽死できるボタンが目の前にあったら、押します?』



「……え?何その質問……」


一瞬何を言ってるのかわからなかった。


『押す、って即答するもんかと思ってました。じゃ、お邪魔しましたー』

「えっ、それどういう…………えー……?」

『なんだったんだろうね今の人』『意味がよくわからんかったよな』『いきなりファンタジーでワロタwww安楽死できるボタンってボタンでどうやって死ぬんだよww』『でもさ、実際あったら押したくならん?』


謎のリスナーが落としていった問いについて少しだけ盛り上がり、その後解散となった。

配信が終了したあとも、俺はあの謎の問いのことを考えていた。


何の深い意味もない、そんなに引っかかる問いでは無いはずなのに。ただのお遊びの問いのはずなのに。

喉の奥に魚の小骨が引っかかっているかのような気持ち悪さがそこにはあった。その気持ち悪さの正体にはどうやっても辿り着けはしなかった。







───────────────────








「あのさ、非常に言いにくいんだけど、もう来なくていいから」

「……は?」


あれから1週間後。バイト先のロッカールームに呼び出され、店長から告げられた言葉に俺は呆然とする。


「え。それって」

「いや、だからさ。クビって言ってんの。長年働いてくれてたけど、もうそれも終わり」

「どうして」

「わかんないかなぁ」


思い返してみても、全く心当たりがない。

昨日までいつも通りに働いていたはずだ。


「……わからない、って顔してるね」

「別にそんなクビになるようなミスとかしてないと思うんですけど」

「そうだね。目立ったミスは、してないかもね」

「じゃあ」

「君さぁ」


吐き出そうとした言葉に被せて店長が言葉を放つ。

その語気は怒りを孕んでいた。


「ずっとネガティブな言葉で周りを滅入らせてるの気付いてないんだね。最初のうちはさ、君も可哀想な部分あったから、そういうこともあるよねって流してきてた。でもさ、いつまで経っても君はネガティブな言葉を吐くし、表情も暗いまま。自分は不幸です〜って空気をずっと出されてるの迷惑なんだよ」

「……すいません」

「ほら、今もそうだ。自分は不幸だ、自分は悪くないとでも思ってんでしょ。態度に出てるんだよ。その態度のせいで何人君の後から入ってきた子が辞めていったかわかる?」

「……ごめんなさい」

「親に怒られた子供みたいな雰囲気出すんじゃないよ。35だろ?おじさんと呼ばれてもいい歳だ。それなのにまだ大人になれないの?態度に出てて、改善する素振りもなければ理解もない。もうそんな人を雇ってられるだけの余裕ないんだよね。いつお客様からクレーム来るかもわからないし。だからさ、君はクビ。ロッカーの中身片付けて帰ってね」


言うだけ言って店長は店に戻っていった。

俺は、何も言い返せなかった。悔しかった。店長が俺の何を知っているというのか。何もあそこまで言わなくてもいいじゃないか。

怒りに震えているとロッカールームの扉が開いた。


「あ、先輩!おはようございます!今からでしたっけ」

「……いや、今から帰るとこだよ」


後輩だった。まだ店長から俺がクビになったことを聞いてないみたいだ。


「はぁ……死にたい」

「まーた言ってんですか。もう口癖ですよねそれ。あ、そうだ……渡したいものがあるんです」


苦笑しながら後輩はカバンに手を突っ込み、何かを差し出してくる。

それは小さな、綺麗な箱だった。


「何これ」

「家に帰ってから開けてください。多分先輩が喜ぶものですよ」

「お、おう……ありがとう」

「じゃあ着替えるんで出てってください!お疲れ様でした!」

「え、あ、うん」


勢いのまま外に追いやられてしまった。片付けも終わってないのに……。

まぁいいか。もうこんなところに用はない。ロッカーに入れてる荷物も勝手に処分されることだろう。

後輩から貰った箱をジャケットのポケットに突っ込み、駅へと向かうのだった。







───────────────────








店から離れて少しすると、クビになった事実が実感となって襲いかかってくる。

どうして。俺は長年あの店で頑張ってきた。芸人時代から働いてた店だ。繁忙日もしっかり仕事をこなしてたはずだ。店長が休みの時だって、しっかり店を預かってた。なのに、何故あんなことを言われて今更クビにならなきゃならないんだ。

死にたい。もう消えてしまいたい。仕事までクビになってこれからどう生きていけばいいのだろう。


「あ、そうだ……ツイデモ……」


駅に辿り着き、電車を待つ間にTwiXを開く。

すると開始の投稿をしていないのに既にツイデモが始まっていた。


『生きるのがつらい。楽に死ぬ権利が欲しい #国は安楽死制度を作れ』

『別に臓器とかもくれてやるから安楽死くらい許してくれよ #国は安楽死制度を作れ』

『飛び込み自殺とかやったら迷惑だなんだと言うんだから安楽死制度あった方がWin-Winだろーが #国は安楽死制度を作れ』

『ホントこのタグ使ってる奴って自分で死ぬことすらできねぇのな。安楽死はお前らのおもちゃと違うぞ #国は安楽死制度を作れ』


あぁ、盛り上がってる。

いつも通りに賛否両論だ。さっきまで絶望してたけど、みんなの盛り上がりを……何も変わらないTwiXの日常を見て、現実を少しだけ忘れられそうな気がした。







────────────────────







「ばんわっすー。今週もツイデモめっちゃ盛り上がって、トレンド10位!こりゃ安楽死制度できるのも近いかもですねー」


今週もまたいつもの時間に配信を開始する。いつもより同接数も多い。これもトレンド効果だろうか。


『お疲れ様でしたー』『おつおつ』『ツイデモ主催者、配信なんてしてたんだ?』『これ何の配信なん?』

「おー、初見さんもちょいちょいいるねー。この配信はね、ツイデモのトレンドのスクショとか、みんなの魂の叫びとかを首相官邸ホームページに送ってるよーっていう報告みたいなもんだね」

『ふーん』『それ意味あんの?w』

「やらなきゃそもそも認知してもらえないしな」


まぁ、理解できないんだろうな。茶化しにきただけっぽいし。


『そういや今日って主さん主導でツイデモ開始してなかったような気がするんですけど何かあったんですか?』

『あれ、そうだっけ』『なんかしれっと始まってたよな』

「え、あー……実は仕事クビになって、死のうかなーってぼんやり考えてたら時間忘れてたんだよね」

『お?w安楽死とかに頼らずに死のうとしてたんか?w』

『なんで死なないのー?死にたいんじゃなかったのー?www』

『お前らそれ主さん追い詰めてんのわかってる?』

『別に死にたがってんだからいいんじゃねーの。背中押してやってんだよ』


案の定というかなんというか、茶化す馬鹿が出てきた。こういう奴らがいるから自殺者も増えるし俺たちみたいに死にたがりも増えるんだ。


……そういえば。


「クビになったときに後輩からなんかもらったんだよな。せっかくだし今開けちゃうか」

『いいですね』『できる後輩だなぁ』

『なんか普通の配信っぽいな』

「たしかこのポケットに……あった。ほら」


ウェブカメラに向けて後輩から貰った箱を見せる。


『アクセか何か?』『綺麗な箱やね』

『えっ、主さんに春来たの?www』

「いや、んなわけないだろ……で、中身は……」



『ボタン?』

「……!?」


箱の中には、謎のボタンが入っていた。クイズ番組とかで見るやつだ。

そして、説明書も入っていた。そこに書かれていたのは


「安楽死、ボタン……?」

『お?』『は?』『何それ』

『先週初見さんが言ってたやつ?』


そうだ。先週、聞いたやつだ。

押したら安楽死できる、ってやつ。

後輩が言ってた、俺が喜ぶってのはそういうことか。

付属していた説明書を読み進める。


「……このボタンを押すと、たちまち安楽死できる。しかし、ボタンを押すとき、純粋に死を想い、死を求めないと地獄の如き苦痛をもたらす……?」

『どういうこと?』『さあ?』

『なんか条件あやふやだよな』『未練とかあったらダメとかそんなんじゃね?』

『地獄の如き苦痛ってwww』『なんか中二くせぇよなwww』


盛り上がってるコメント達が流れていく中、俺の首元がスッと冷える。

見た目はチープなボタン。説明書も胡散臭いことこの上ない。そもそもの話ボタンを押して安楽死なんて馬鹿馬鹿しい。そんなことあるわけがない。

あるわけがない、はずなのに……何故だろう。俺はこのボタンが本物じゃないかと感じている。


『それ押さないの?』

「……えっ?」


ボタンに目を奪われ考え込んでいるとそんなコメントが飛んできた。押す?このボタンを?


「なんで?」

『いやなんでって』『主さん安楽死したいんでしょ?』

『ちょっと気になるよね』『まぁ十中八九偽物だろうけど』『押したら何が起きるんだろ』


好き勝手コメントが飛び交う。コメント読み上げソフトの無機質な声が腹立たしく思えてきた。

こいつらは、わかっているのか?俺に、この場で死んでみろと言っているんだぞ?


「多人数で、この場で死ねと言ってるの?」

『マジになってて草』『まさかそれ本物とか思ってんですか?w』

『死にたがってたんだからいいじゃんね』『本物なら安楽死できるんだよ?押さない理由がない』

「いや、俺は安楽死制度を国に作らせるって使命が」

『毎週やるの引き継ぎますよ!』『どーせ偽物だから死なないって』

『楽になってください。今まで頑張ってきたご褒美ですよ』『ここまで言われていざ押して死ななかったら気まずすぎてウケる』


コメントが異常だ。怖い。

何故そんなに気軽に死ねと言えるのか。

レスバを吹っかけてくる奴らの言葉より、今この場にいる奴らの言葉が異様に近くて、リアルで、怖い。


『まさかとは思うんですけど』

「……え?」

『死にたいって嘘だったんですか?』

「そんなことない!」

『なんかキレててウケる』『必死でちゅね〜www』

『怖いんでしょ』『え?あんなに死にたい死にたい言ってたのに!?』

『扇動して楽しんでただけでしょ』『インプレッション稼ぎで収益化……ってコト!?』

「嘘じゃない!楽しんでもない!」


どんどん変な方向へ転がっていく。

俺の死にたい気持ちに嘘はない!といくら訴えたところで、この狂気の連鎖は、止まらない。


『だったら押しなよ』

『押せ』『押して』『押さなきゃ』『押すんだよ』『押せよ』『押してくださいよ』『押してみなよ』『押せないの?』







「……ッ!!!

う……あああぁぁぁァァァァーーーーッッ!!!!!」








押して、しまった。

これで、俺は安楽死……















「……あれ?」


生きてる。苦しくもない。

何も、起きない。


『やっぱ偽物じゃん』『魂の慟哭ってかんじだったの草』

『そりゃボタンひとつで死ぬわけないよなw』『ピンポーン!って鳴るんかと思ってたw』

『正解は!ピンポーン!』『豊後製菓!』『www』


何も起きないのを見てさっきの異様な雰囲気はどこへやら。コメント欄も和やかな雰囲気になる。


「ふぅ……」

『あれ?』

「ん?」


『なんか、覆面から血出てない?』





……えっ?


触ってみる。確かに、血だ。

どこから?

血の出所を探す為に顔をペタペタと触る。すると唐突に


「……っ!!あ……っ!!!がっ……!!い、たい……ッ!……!」

『は?』『なんで?』『急展開きた?』


激痛が走り始めた。顔が焼けるように痛い。いや、顔だけじゃない。痛みは全身を駆け巡る。

困惑するコメントが聞こえてくる。が、そんなのに返事する余裕もない。

痛い、痛い、痛い、いたい!!!!


「っ……!!ハァ……!ハァ……!うっ!カッは……」

『え、マジだったってこと?』『これ通報した方がいい?』『いや演技じゃね?』『血糊ってこと?』

『熱演すぎて草』『いやめっちゃ血出てんぞ』


内臓が不快感を叫び始める。椅子に座ってるのもキツい。全身の血管という血管に虫が這い回るような痛みと嫌悪感。

苦しい、くるしい。なぜ、こんなことに


「ぁ……っ!!ゔぉえッ……」

『うわ吐いた』『すっげ』『ボタン本物だったんか』

『でも安楽死と程遠くね?』『本当は死にたくなかったんじゃないの』『流石に通報か?』『でも人が死ぬ様って見てみたくね?』『グロいグロいやめてくれー』


いたい、くるしい、なぜ

おれは、しにたかった、はずなのに

なぜ、くるしい。いやだ、くるしい、いたい

なにも、みえない。いやだ









「……!……し……にた……っ!」



く、ない………………












『死ぬことができて、よかったね』








さいごにきこえたのは

そんなことばだった

























────────────────────


翌日、とあるアパートの一室に訪れる人物がいた。


部屋の扉を開けると、血や吐瀉物としゃぶつ()えた臭いがする。その中に溺れるように倒れている肉塊を無視してPCデスクの上に置かれているボタンを回収すると


「正直なところ、あなたはお膳立てしてもどうせ押さないんだろうなって思ってたんですけどね、先輩」


と、吐き捨てた。


「あなたは、本当に死にたかったわけじゃない。ただ、何の努力もせずに不安もなく生きたいと駄々をこねてただけ。

自分が苦しいのは他人のせいだと思い込んで、色々なものから目を背けている事実を自覚しながらも受け止められないから、死にたいなんて言葉で誤魔化した」


言いながら死体に近付き、死体が着けていた覆面を外す。中身はズルズルにただれて誰かわからないような状態になっていた。


「安楽死を求めて、デモを起こす。その時点で矛盾していることに気付くべきだったんです。

求めて、行動する……それは、生きるということなんだって。あなたは、生きていたかったんです。ただ、何者かになりたかった。だからデモを主催し、人々を扇動した。

あなたは、努力の方向を間違えた。

愚かであることを受け入れ、正しく努力したならば、もっといい死に方ができたでしょうに」


入ってきた扉の方へ向かい、最後に部屋を一瞥いちべつする。


「ま、全ては終わったことです。いくらあなたが愚かだったとしても、もう取り返す術もない。


せめてあなたの死後の魂が、安らかでありますように。


おやすみなさい」


言葉と共に彼、もしくは彼女は姿を消した。


この部屋には、もう、誰もいない。



















【安楽死ボタン】 ─終─

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

お疲れ様です。自分も疲れました。そして後書きも疲れる話題が続いちゃいます。


が、その前にちょっとアレなんですけど、この作品便宜的にホラーのカテゴリに放り込んでるんですけど、ホラーなんですかね。ヒューマンドラマとは違う気がするけどホラーってほどホラーじゃないし。謎のファンタジーボタン出てくるけどファンタジー作品な訳もないし。カテゴライズって難しくないですか?個人的には風刺に近いかなって感じもしなくもないというかなんというかなんですけども。


……とまぁ戯言は置いといて。

あなたは「死にたい」と思ったことはあるでしょうか。

自分はあります。でも、いざ包丁を自分に向けて当ててみると「怖いな」って思うのできっと死にたくないんだなって思って切り替えることにしてます。1時間くらいそのままで固まってしまったしね。

自殺した人が怖がってなかった、なんて思いません。でも、恐怖を乗り越えて自分で死ぬことができているのでなんというか、凄いなって思います。それが例えば強迫観念だったとしても。必要に駆られたことだったとしても。不安の末の選択だったとしても。

なのでなんというか、死ぬ死ぬ言って他の人にただ自身の要求を押し付ける人がとても苦手です。作中のアンチの人達が自分のスタンスに近いかもしれないですね。まぁ、あのアンチの言い方もあまり好きじゃないんですが。

この手の話ってかなり反発が多いと思うんですよね。だからこそ小説にしたいなって思って書いてたんですけど、めちゃくちゃ死という言葉が出てくるのでね。言葉に押し潰されそうでした。これを書いてる時、やっぱり言葉の力を再認識させられました。悪意のこもった言葉とか、死だとか連呼してるとマジで心が重くなる。キツいっすわ。

死をテーマにしてる作家の人は本当にすごいと思います。

メンタルが強いというか……もしかしたら自分が耐性が無いだけかもしれませんが。



とりあえずね、こんなしんどくなる話はもうやめて、他のお話をしましょう。と、思ったけど全然話題湧いてこないわ。


じゃあ他の作品の宣伝でもしましょうかね?

現在連載中で処女作のファンタジー作品【巫の剣】も読んでくれたら嬉しいです。【安楽死ボタン】掲載時点ではまだ一章の途中ですけども。多分3月中に一章が終わる予定です。

よかったら読んでね!あとブクマ登録とかあると嬉しいね!

ではでは!

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