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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
幕間,もう一つのケネディ暗殺の裏側~ワシントンに続く細い回線
94/111

93,凍てつく銃弾と、二人の革命

雪解け前のアメリカとキューバ。カストロの元に衝撃のニュースが入ってきます。


ワシントンに続く細い回線編クライマックス!

1963年11月22日。午後。ハバナ郊外、海沿いの別荘。


フィデル・カストロは、フランス人ジャーナリストのジャン・ダニエルと昼食をとりながら、まだ消えきらない言葉の余韻の中にいた。


水面下で進められてきた「秘密飛行場での直接対話」の合意。

アメリカ側の代理人を、表の外交ルートではなく、誰にも知られぬ形で受け入れるという危険な計画。

そして、ジャーナリストを通じて届けられた「平和への意志」。


長く凍りついていた海の向こうとの関係が、今まさに音を立てて溶け始めているように思えた。


「君が『北の若き大統領』から託されてきた言葉は、確かに受け取った。」


カストロは葉巻の灰を落としながら、静かに言った。


「イデオロギーは水と油だ。だが、彼は自国の狂犬どもに首輪をつけようとしている。……我々は、少なくとも一度は、真の平和について同じテーブルで語り合うべきだ。」


ジャン・ダニエルは黙っていた。

記者としてではなく、今この瞬間だけは、歴史の廊下に立つ一人の目撃者として。


部屋の窓は半分だけ開いていた。

海風が薄いカーテンを揺らし、遠くで鳥の鳴き声がした。

その穏やかさが、かえって不吉だった。


※※※※※※※※※※


その時だった。


別室で、電話が鳴った。

一度。

二度。

三度。


部屋の空気がわずかに止まる。

続いて、急ぐ足音。

扉が乱暴に開き、専属主治医にして側近のレネ・バジェホが、血の気を失った顔で飛び込んできた。


「……カストロ。」


その声だけで、何かが壊れたことをカストロは悟った。


「北の国から緊急の報せが――。」


葉巻を持つ指が止まる。


「テキサス州のダラスで……ケネディ大統領が撃たれた。現在、死亡が確認されたと……。」


部屋の空気が、完全に凍りついた。


ジャン・ダニエルが息を呑む。

カストロは手から葉巻を滑り落とした。

床に落ちた火種が、チリチリと虚しい音を立てる。


「……死んだ、だと?」


彼はゆっくり立ち上がった。

そして次の瞬間、机を両手で激しく叩きつける。


「愚か者どもめ!」


革命の指導者の口から、地鳴りのような怒声が爆発した。


「なんてことだ! すべてが終わった! 北のタカ派どもは、必ずこの暗殺を我々のせいにして、再び戦争の準備を始めるぞ!

あれほど平和を望んでいた男を、彼らは殺したのか!」


その怒りは、相手へ向けられたものというより、世界そのものへの罵倒に近かった。

あと一歩で会話へ届いたはずの細い回線が、銃弾三発で吹き飛ばされたのだ。


ジャン・ダニエルは動けなかった。

自分が数時間前まで運んでいた短い言葉が、いまや死者の遺言へ変わってしまったことを、まだ理解しきれずにいた。


カストロはなおも肩で息をしていた。

その背中に、別の声が落ちる。


「驚くことじゃない――。」


部屋の入口の影に寄りかかっていたチェ・ゲバラが、静かに口を開いた。

彼の瞳は、嵐のような状況の中でも恐ろしいほどに凪いでいた。

まるで、この結末をどこかで最初から見ていたかのように。


「彼は、遅かれ早かれこうなる運命だった。」


カストロが振り返る。


「アメリカという国家は、絶えず『戦争』を必要とする巨大な怪物だ。」


ゲバラは低い声で言った。


「彼を殺したのは、特定の誰かじゃない。彼を排除しようとしたのは『時代そのもの』だ。だから言っただろう、フィデル。怪物は個人の良心など許さない。我々と繋がろうとしたあの極秘の回線は、銃弾によって完全に切断されたんだ。」


重苦しい沈黙が部屋を支配した。


だが、カストロは床に落ちた葉巻を強く踏み躙ると、血走った目でゲバラを睨み返した。


「アメリカとの『線』は切れたか……。」


その声は低かった。

だが、その底では、別の種類の炎が燃え始めていた。


「このまま引き下がれば、世界は再びあの『十月の悪夢(キューバ危機)』に逆戻りする。我々の島は孤立して干上がる。雪解けの希望まで、全部ダラスで埋められたことになる。」


カストロの顔から、先ほどまでの絶望が少しずつ剥がれていく。

代わりに現れてくるのは、密林時代から変わらぬ執念の顔だった。


※※※※※※※※※※


彼はゲバラの方へ歩み寄る。


「ゲバラ。」


「何だ。」


「お前はこれから、内政をやりたいか? それとも外交か?」


唐突な問いだった。

だが、その場にいた誰よりも、ゲバラはその意味を理解していた。

少しの沈黙。その沈黙の中に、シエラ・マエストラの密林も、革命の勝利も、ミサイル危機も、共に潜り抜けたすべての歳月が詰まっていた。


やがて、ゲバラは少しだけ目を細める。


「どちらでもない。」


そして、静かに、しかし確信に満ちた声で言った。


「俺は『革命』がしたい。」


その答えを聞いた瞬間、カストロの顔から、先ほどまでの絶望が消えた。

代わりに、猛獣のような不敵な笑みが広がる。


「なら話は早い。」


彼は壁に掛けられた世界地図を指差した。


「俺は、この島国を強固な拠点として鍛え上げる。お前は、時期を見て世界へ出ろ。国家の肩書きでではない。もっと危険な顔でだ。第三世界の連中に、反米と連帯の結集を呼びかける『最強のタカ派』を演じろ。」


それは、アメリカとの対話を完全に諦め、世界規模のイデオロギー闘争へと舵を切る、あまりにも危険な決意だった。


ゲバラは表情を変えないまま言う。


「……本気か、フィデル。そんな立ち回りを演じれば、俺は完全に西側から『最も危険な男』の烙印を押される。後戻りはできない。」


カストロは肩を揺らして笑った。


「さっき『革命をしたい』と言ったのはお前だぞ、ゲバラ。」


その返しに、ゲバラもまた、呆れたように小さく息を吐いた。

だが口元には、かすかな笑みが浮かんでいた。


カストロは歩み寄り、かつて密林で血を流した同志の肩を力強く掴む。


「今すぐにという訳じゃない。それにこれは決別でもない。」


彼は、ゲバラの目を真っ直ぐ見た。


「二人で一つの革命になるんだ。」


その言葉は、政治的な役割分担の宣言でもあった。

だがそれだけではなかった。

国を守る者と、国の外へ炎を運ぶ者。

その分かれ方は、別離ではなく、もっと執拗な結びつきだった。

友情と呼んでもいい。

兄弟愛と呼んでもいい。

あるいは、もっと危険で巨大な、革命家にだけ許される愛と呼んでもよかった。


海風が、開いた窓から部屋へ吹き込んだ。

その瞬間、ジャン・ダニエルは理解した。

いま目の前で起きているのは、単なる外交の失敗ではない。雪解けの未来が死んだ、その同じ場所から、より巨大な闘争が始まろうとしているのだと。


一本の電話線は切れた。

だからこそ、この二人は新たな戦い方を選ぶしかなかった。

キューバという国家を強固な「拠点」とし、そこからゲバラという純粋な「革命」を世界へ撃ち出すという戦い方を。


もし、まだ海の向こうに彼らの言葉を運ぶ耳と口が残っているのなら――それはもう、あの女記者のような者たちの自由意志に賭けるしかなかった。

ケネディ暗殺の背景として一つの要素として、キューバ革命時にアメリカに亡命したキューバ支配者層の存在も語られます。

しかし、ケネディからの電文は確かにカストロに届いてました。

次回、本編グランドフィナーレです。


【お知らせ】長編のエピソードになると思わず連載を開始したので、今、前半を大幅改稿しています。

改稿後はボリュームが二倍以上になり背景もわかりやすく史実に寄せてます。(初めはヒューマンドラマを描く予定でした。)

改稿したものはタイトルに改稿としています。ぜひお読み下さい。(日本編の前まで改稿よていです!)

ジャンルもヒューマンドラマから歴史へ。


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