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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
幕間,もう一つのケネディ暗殺の裏側~ワシントンに続く細い回線
93/102

92,たった24時間の春

この幕間のシリーズは、ケネディ暗殺の陰謀論と実話を切り分けるプロセスで発見しました。

会話内容などは小説ですが、人物、出来事は史実に沿って作っています。

スパイ映画さながらの出来事が恐ろしく絶妙なタイミングで起きていたんですね!


幕間では、リサを中心に解読されないようにイニシャルが沢山出てきます。


以下一覧です。スリリングなスパイ物語のような実話ほぼが始まります。


F.C.(フィデル・カストロ)――キューバ革命の最高指導者/『農園主』

L.H.(リサ・ハワード)――ABCの看板記者

W.A.(ウィリアム・アットウッド)――米国側の実務担当

L.(カルロス・レチュガ)――キューバ国連代表、表の窓口

R.V.(レネ・バジェホ)――カストロの側近兼主治医/『主治医』

K(ジョン・F・ケネディ)――アメリカ大統領/『クライアント』

J.D.(ジャン・ダニエル)――フランス人ジャーナリスト、最後の伝言役


分からなくなったらここをみて下さい。

1963年11月21日。ハバナ。


カリブ海の熱風が、革命宮殿の長い廊下を吹き抜けていた。

フランス人ジャーナリスト、ジャン・ダニエルは案内役の後ろについて歩きながら、自分の掌がわずかに汗ばんでいるのを感じていた。


彼はこれまでにも権力者に会ってきた。

だが、今日の面会は少し違う。

インタビューでも、表敬訪問でもない。

北の大統領K(ケネディ大統領)から託された、録音も記録もない私的な伝言を、南の革命家へ渡すためにここへ来ている。

その役目がどれほど危険かを、彼はもう十分に理解していた。


重厚なマホガニーの扉が開く。


部屋の奥から、最高級のコイーバの煙を纏った巨漢の男が歩み寄ってくる。

カーキ色の軍服。

野性味を帯びた髭。

アメリカという大国を相手に一歩も引かず、リサ・ハワードに「歌を歌わないロック歌手」と言わしめた、底知れぬカリスマ性。


フィデル・カストロ、その人だった。


「よく来てくれた、フランスの友人よ。」


カストロは低く、しかし妙に親しげな声で言った。


「長旅だっただろう。」


「ええ。ですが、私が運んできたのは荷物ではありません。」


カストロの片眉がわずかに上がる。


「ほう――。」


ジャン・ダニエルは一歩、前へ出た。

この場で言葉を濁す方が危険だと、直感が告げていた。


「北の大統領から、個人的なメッセージを預かっています。」


その瞬間、カストロの目つきが変わった。

独裁者の仮面の奥で、一人の対話者がわずかに顔を出す。

葉巻を持つ指が止まり、部屋の空気が一段だけ静まった。


「……聞こう。」


ジャン・ダニエルは、一字一句を間違えぬよう注意しながら告げた。


「彼は、あなたとの平和を望んでいる。そのために、アットウッドという男との密談を用意している、と。」


短い沈黙。


長く、ほんの長く、誰も動かなかった。

窓の外から聞こえる車の音も、遠い波のざわめきも、その一瞬だけ別の世界の出来事のように思えた。


やがてカストロは、葉巻を灰皿に置いた。

その仕草だけで、ジャン・ダニエルには分かった。

いま自分は単なる記者ではなく、二つの国家のあいだに置かれた、危険な火薬の箱の蓋を開けようとしているのだと。


「イデオロギーは水と油だ。」


カストロは低い声で言った。


「だが、世界というものは、水と油でも爆発する前に同じ器へ入る必要がある。」


彼はそこで初めて、小さく笑った。


「Kは若い。若い人間は、時々、老人たちがもう忘れてしまったことをやろうとする。」


ジャン・ダニエルは言葉を返さなかった。

返せる種類の言葉ではなかった。


カストロは椅子へ腰を下ろし、ダニエルにも座るよう目で促した。


「聞こう。……我々の雪解けの第一歩を――。」


それは国家間の正式交渉ではない。

だが、その場にいた者なら誰でも理解できた。

細すぎて、危険すぎて、だからこそ誰にも見えなかった一本の回線が、今この瞬間に確かに体温を持ち始めたのだと。


※※※※※※※※※※


同じ夜。ニューヨーク。


リサ・ハワードは眠れなかった。


窓の外ではマンハッタンの灯がいつも通りに瞬いている。

タクシーの音も、遠くのサイレンも、何一つ変わらない。

なのに彼女には、世界の見え方だけが少し変わってしまったように感じられた。


春にハバナで受け取った紙切れ。

九月の最初の握手。

十月の危険な回線。

十一月十八日の黒い電話機。

そして今、ジャン・ダニエルが運んでいるあの短い言葉。


どれも単体なら、歴史の脚注にもならないほど小さい。

だが、それらが一本の線でつながった瞬間、国家同士が、もはや新聞の見出しではなく、人間同士の会話へ戻れるかもしれないところまで来ていた。


リサは煙草に火をつけなかった。

ただ、窓辺で腕を組んだまま、ダラスの天気予報を思い出していた。


空は晴れるらしい。


なぜか、そのことがひどく不吉に思えた。


ダラス。

拍手と歓迎の顔の裏で、別の感情が静かに息をしている街。

もしこの危険な雪解けがほんの少しでも漏れれば、あの街の空気は、それを歓迎ではなく裏切りとして嗅ぎ取るだろう。


それでも彼女は、今夜だけは希望を信じたかった。

あの若い大統領と、あの歌を歌わないロック歌手と、その傍らに立つ冷たい革命家。

彼らなら、世界を別の方向へ少しだけ押せるかもしれない。


この春は遅すぎた。

あまりにも短すぎた。

だが、それでも確かに春だった。


希望に満ちた対話の糸が、ついに両国をつないだ。

しかし、運命のダラスの銃撃まで、すでに「24時間」を切っていた。

歴史にifはありませんが、両国の雪解けに向けた動きは確かにありました。たった24の春。


【お知らせ】長編のエピソードになると思わず連載を開始したので、今、前半を大幅改稿しています。

改稿後はボリュームが二倍以上になり背景もわかりやすく史実に寄せてます。(初めはヒューマンドラマを描く予定でした。)

改稿したものはタイトルに改稿としています。ぜひお読み下さい。(日本編の前まで改稿よていです!)

ジャンルもヒューマンドラマから歴史へ。


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