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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
幕間,もう一つのケネディ暗殺の裏側~ワシントンに続く細い回線
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89,農園主の機嫌

この幕間では、リサを中心に解読されないようにイニシャルが沢山出てきます。


以下一覧です。スリリングなスパイ物語のような実話ほぼが始まります。


F.C.(フィデル・カストロ)――キューバ革命の最高指導者/『農園主』

L.H.(リサ・ハワード)――ABCの看板記者

W.A.(ウィリアム・アットウッド)――米国側の実務担当

L.(カルロス・レチュガ)――キューバ国連代表、表の窓口

R.V.(レネ・バジェホ)――カストロの側近兼主治医/『主治医』

K(ジョン・F・ケネディ)――アメリカ大統領/『クライアント』

J.D.(ジャン・ダニエル)――フランス人ジャーナリスト、最後の伝言役


分からなくなったらここをみて下さい。

同じ頃。ハバナ。


二度目の呼び出しの前に、R.V.(レネ・バジェホ)は受話器を押さえたまま、カストロを見た。


「切れました。」


カストロは、そこで初めて小さく笑った。


「いい。」


葉巻の煙が、窓辺の暗がりへ流れていく。


「少なくとも、ただのテレビ女じゃない。」


ゲバラは腕を組んだまま言った。


「記者にしては慎重だ。慎重でなければ、ここまでは来られん。」


カストロは短く答えた。


「次は本物で行け。だが、まだ全部は見せるな。」


バジェホは頷いた。

そして今度は、自分の声で線をつなぐ。


※※※※※※※※※※


ニューヨーク。


黒い電話機のベルが、もう一度鳴る。

一度。

二度目が鳴る前に、リサは受話器を取った。


今度のノイズは違った。

もっと湿っている。

遠い海沿いの病室のような、妙に生々しいざらつきだった。


「……ニューヨークの天気は?」


低い声。

短い。

装飾がない。


リサはその声を聞いた瞬間、ようやく肩の力を少しだけ抜いた。


「最悪よ。」


彼女は同じ低さで返す。


「あなたのところの湿気よりは、まだましでしょうけど。」


向こうで、ごく短く息を吸う音。

それで十分だった。

本物のR.V.だ。


アットウッドはその場で動きを止めた。

もう一言も挟まない。

ここから先は、リサの舌だけが線を守る。


「農園主の機嫌はどう。」


「悪くない。」


「収穫は?」


「見る価値はある。」


「今年中に?」


「天候次第だ。」


世間話にしか聞こえない。

だが、二人には意味が通じている。


農園主――F.C.(フィデル・カストロ)。

収穫――会談。

天候――アメリカ側の本気と安全性。


「見学人は一人でいいの?」


リサが問う。


「多ければ畑が荒れる。」


「表門から?」


短い沈黙。


「まさか。」


その一語で、部屋の空気が変わった。

アットウッドが目を上げる。

線が、一段深いところへ潜ったのだ。


「裏道?」


「海に近い方がいい。」


「第三国の港を使う?」


「賢明だ。」


リサは椅子の背にもたれた。

表向きは果物や農園見学の話だ。

だが実際には、ハバナ空港ではなく、ベラデロ近くの私設飛行場に、第三国経由で“代理人”を迎え入れる話になっていた。


「見学人は、耳があるわ。」


「農園主もだ。」


「口は?」


「必要な分だけ。」


リサは一瞬だけ黙った。

この沈黙が長すぎれば疑われる。

短すぎれば浅く見える。


「こちらのクライアントも、耳はある。」


彼女は慎重に言った。


「ただし、口はもっと少ない。」


向こうで、今度はわずかに笑った気配がした。

バジェホは笑う時だけ、息の混じり方が少し変わる。


「それなら話が早い。」


ここでアットウッドが小さく身を乗り出した。

だがリサは手で制する。

まだだ。今、本題へ飛びつけば、むしろ危ない。


「ところで、地図は紙で送らないで。」


「もちろんだ。」


「こちらもメモは取っていない。」


アットウッドは無意識にメモ帳へ置いていた手を引いた。


「賢明だ。」


「賢くなきゃ死ぬもの。」


向こうの沈黙は、同意の代わりだった。


それから二人は、もう数往復だけ、ほんの少し遠回りをした。

収穫の時期。

見学人の数。

農園主の都合。

湿気と天候。

どれも暗号だった。どれも本物の意味を隠していた。

そしてその一つ一つが、一本でも間違えば全員の首を飛ばしかねない種類の言葉だった。


ようやく、バジェホが低く言う。


「では、次は代理人と。」


「まだ早い。」


リサは即座に返した。


「収穫までまだかかる?」


向こうは一拍置いてから答えた。


「……分かった。だが長くは待たせない。」


「こちらも同じよ。」


※※※※※※※※※※


回線が切れ受話器を置いたあとも、部屋にはしばらく回線の余熱だけが残っていた。


アットウッドが最初に口を開いた。


「向こうは会う気だ。」


「ええ。」


「探りではない。」


「もう違う。」


彼は窓の外を見た。

マンハッタンの夜景はいつものように美しかった。

だが、その美しさの裏で、ニューヨーク、ワシントン、ハバナのあいだを、まだ誰の名前も持たない回線が細く、危うく、張り詰めている。


「ここから先は、人が動く。」


アットウッドは低く言った。


「書類じゃない。記事でもない。もし失敗したら、誰かの失言じゃ済まない。本当に死ぬ。」


リサは煙草の灰を落とし、窓の外を見たまま答えた。


「誰だってそうでしょ。」


それから、少しだけ笑う。


「平和にだって、死ぬ覚悟はいるのよ。」


アットウッドはその言葉に何も返せなかった。

ただ、窓の外を見ていた。

この賭けがどこまで行くのか、もう彼にも分からない。


それは国家が誇る外交ではない。

国家が、自分の顔を隠したまま試す、最も危険な賭けだった。


そしてその賭けは、もう後戻りのできないところまで来ていた。

核戦争の危機のあと雪解けはくるのか――?



長編のエピソードになると思わず連載を開始したので、今、前半を大幅改稿しています。

改稿後はボリュームが二倍以上になり背景もわかりやすく史実に寄せてます。(初めはヒューマンドラマを描く予定でした。)

改稿したものはタイトルに改稿としています。ぜひお読み下さい。(日本編の前まで改稿よていです!)

ジャンルもヒューマンドラマから歴史へ。


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