第8話 裁判
法廷は明るすぎた。光は正義の味方じゃない。
光は見たいものだけを照らし、見たくないものを影へ追いやる。影に追いやられたものは、存在しないことにされる。だから俺は光の中で、影の話をする。
机の上の紙は白い。白すぎる。
白い紙の上に、黒いインクで“罪”が並ぶ。インクは乾いている。乾いているのに、そこだけ湿って見える。
紙は薄い。薄いのに、人間の首を切れる。
俺は弁護士だった。言葉の刃の使い方を知っている。
だがこの場で、刃を振り回す気はない。振り回せば折れる。折れた刃は、笑いの材料になる。
俺は笑いの材料になりに来たんじゃない。未来の材料になりに来た。
裁判官の視線は俺を見ていない。紙を見ている。
紙が現実を決めるのなら、俺は現実を紙に刻むしかない。
言葉を選ぶ。選びすぎると飾りになる。飾りは軽くなる。
軽くなると、聞く側は安心する。
安心は敵だ。
俺は理由を並べなかった。
理由は反論できる。反論できるものは、彼らにとって“処理できるもの”になる。
処理されるのは、俺の望みじゃない。
残すのは、反論できない核心だけだ。
「――俺はここに立っている。」
立っていることが、すでに敗北ではない。
敗北ではないからこそ、彼らは苛立つ。苛立ちは制度の裏側から匂う。
俺は一呼吸置いて、最後の一言だけを投げた。
「歴史は俺に無実を証明する!」
空気が止まった。止まったのは空気じゃない。人間の時間だ。
彼らは、俺の時間をここで終わらせたい。俺は、時間を外へ持ち出した。
判決の文が読まれる。文は淡々としている。淡々としているのは、感情がないからじゃない。
感情を排除しないと、この仕事は続けられないからだ。
そしてその言葉が落ちた。
懲役15年――
革命家としての人生を奪う言葉は、紙の上であまりにも軽く見える。
殺さないかわりに、未来を殺す。“慈悲”の顔をした残酷だ。
俺は笑わなかった。泣きもしなかった。
目を逸らさずに聞いた。目を逸らさないというだけで、人間は抵抗できる。
監獄の扉が閉まる音がした。冷たい音。
その音だけが、俺の体に残った。
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ゲバラも、カストロもいちいちセリフかっこいいんですよね。それだけでストーリーかけるみたいな。行動してるのにあんな言葉言われるとキュン死にします。
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