表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
幕間,もう一つのケネディ暗殺の裏側~ワシントンに続く細い回線
86/105

85,雪解けへの奇妙な配役

この幕間では、リサを中心に解読されないようにイニシャルが沢山出てきます。

以下一覧です。スリリングなスパイ物語のような実話が始まります。


F.C.(フィデル・カストロ)――キューバ革命の最高指導者/『農園主』

L.H.(リサ・ハワード)――ABCの看板記者

W.A.(ウィリアム・アットウッド)――米国側の実務担当

L.(カルロス・レチュガ)――キューバ国連代表、表の窓口

R.V.(レネ・バジェホ)――カストロの側近兼主治医/『主治医』

K(ジョン・F・ケネディ)――アメリカ大統領/『クライアント』

J.D.(ジャン・ダニエル)――フランス人ジャーナリスト、最後の伝言役


分からなくなったらここをみて下さい。

1963年9月22日。ニューヨーク、マンハッタン、アッパー・イースト・サイド。


夜の窓に、街の灯が細かく滲んでいた。

ABCニュースの看板特派員、リサ・ハワードの自宅アパートメントでは、翌晩の小さな集まりの準備が静かに進んでいる。


氷を満たした銀の水入れ。

磨かれたグラス。

棚の上に積まれたレコード。

そして、サイドテーブルの隅に置かれた黒い電話機。


リサはドレッサーの引き出しを開け、小さな封筒を取り出した。

春のハバナで、フィデル・カストロ(F.C.)から託された覚え書き。

公式の印章も、署名も、派手なレターヘッドもない。

ただの紙切れにしか見えない。だが、その薄い紙一枚に、国家をひとつ揺らしかねない熱が宿っていることを、彼女はもう知っていた。


この話には、最初から奇妙な配役が必要だった。

農園主――F.C.(フィデル・カストロ)。

主治医――R.V.(レネ・バジェホ)。

表の窓口――Lカルロス・レチュガ

クライアント――K(ケネディ大統領)。

代理人――ウィリアム・アットウッド。

そして、自分。

テレビの顔をした、ただの女主人。あるいは、ただの運び手。


名前をひとつでも言い間違えた瞬間、この話は終わる。

新聞の見出しになる前に、誰かの机の引き出しの中で握り潰される。

だからこれは、最初からニュースではなく、運搬の物語だった。


インターホンが鳴る。


「どうぞ。」


やがて現れたのは、背広姿の男――米国連代表部の特別顧問、ウィリアム・アットウッドだった。

肩書きは上品だが、その顔には外交官らしい余裕がほとんど残っていない。

部屋に入るなり、壁の絵も酒棚も見ず、彼はリサの手元の封筒だけを見た。


「それか?」


「そうよ。」


リサは封筒を軽く振った。


「春のハバナ土産。どうせ大げさな宣伝文句だろうと思っていたけど、読めば分かるわ。これはテレビで読み上げる種類の言葉じゃない。」


アットウッドはグラスにも手をつけず、ソファに腰を下ろした。


「見せてくれ……。」


リサは少しだけ迷った。

だが、ここまで来て後戻りはない。

彼女は封筒を開け、中の紙を差し出した。


アットウッドは目で追った。

二行。三行。

それほど長い文ではない。

だが、読み進めるにつれて、その表情から血の気が引いていく。


「……本物だな。」


「ええ。私も最初はそう思いたくなかったわ。」


「君はこれを誰に渡すつもりだった?」


「だからあなたを呼んだのよ、ビル。ホワイトハウスに近すぎれば露骨すぎる。国務省に渡せば、あの連中はまず握り潰す。新聞社に流せば、それで終わり。だから、まだ“外交”にも“報道”にも見せられる男が必要だった。」


アットウッドは紙を折り直し、テーブルに置いた。


「便利な理屈だな。失敗したら、切られるのは私だ。」


「大丈夫よ。成功しても切られるわ。」


その返しに、彼は初めて少しだけ笑った。

だが、その笑いには温度がない。


「K(ケネディ大統領)は、雪解けの余地を見ている。」


その一文字が出た瞬間、部屋の空気が一段冷えたように感じられた。

リサは黙ってアットウッドを見た。


「本気なの?」


「少なくとも、私がこうして君の部屋へ来る程度には。」


「でも、政府の仕事じゃない――。」


「表向きはな――。」


アットウッドは短く答えた。


「紙は残らない。名前も出ない。漏れた瞬間、すべては存在しなかったことになる。そういう話だ。」


リサは煙草に火をつけた。

薄く立ちのぼる煙が、二人の間に細い膜を張る。


「素敵じゃない。戦争はいつも大声で始まるのに、平和はいつだってコソコソしてる。」


「君は皮肉を言う時だけ、少し賢すぎるな。」


「テレビに出るには、そのくらいでちょうどいいのよ。」


アットウッドは立ち上がり、窓の外を見た。

マンハッタンの夜景は美しかった。

だが、その美しさは時として、こういう裏面工作にはあまりにも上等すぎて、むしろ悪趣味にすら見えた。


「明日の夜、Lカルロス・レチュガは来る。」


「キューバの国連大使ね。」


「君の招待を断れない。ABCの看板特派員に呼ばれて来ない方が目立つからな。」


リサは肩をすくめた。


「便利な肩書きね。私も、あなたたちも、それぞれ違う意味で利用してる。」


アットウッドは否定しなかった。

ただ、低い声で言う。


「Lが乗れば、次はハバナだ。」


今度は、リサが沈黙する番だった。


「……R.V.(レネ・バジェホ医師)を使う気?」


アットウッドは答えない。

だが、それで十分だった。


R.V.。

F.C.の側近にして主治医。

そして、あの革命国家の中枢へ最短で届く、影の回線。


リサは煙草を灰皿に押し当てた。


「ねえ、ビル?」


「何だ?」


「あなたたちが本当に繋ごうとしているのは、LでもR.V.でもないでしょう?」


アットウッドはグラスの氷を指で鳴らした。


「KとF.C.。あなたたちが本当に繋ごうとしてるのは、その二人よ。」


彼は否定もしなかったし、肯定もしなかった。

その沈黙だけで十分だった。


だが、リサにはもう分かっていた。

これは、ただのスクープではない。

女記者が言葉を拾う話ですらない。

北と南、二人の男のあいだに、まだ誰の名前も持たない一本の線を通そうとする話なのだ。


そして、その線が結ばれる場所は、明日の夜の、あのパーティーしかない。

まさか86エピソードになると思わず連載を開始したので、今、前半を書き直してます。

3/21時点でプロローグがかなり変更されてますのでよろしければ覗き見してください。

ジャンルもヒューマンドラマから歴史へ。


よろしければ、ブックマーク/感想/★で応援してもらえると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ