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74,数字の言語、炎の言語

引き裂かれる星条旗編。


本編はメアリーの目線です。


前半のテーマはケネディを暗殺したのは――。


この当時まだベトナム戦争にアメリカは参戦してません。しかし多くの軍事顧問(兵隊)を送ることで泥沼に足を踏み入れかけてます。

1963年の夏。ホワイトハウスは、国内の「公民権法案」を成立させるための巨大な政治的プレッシャーの中にいた。

黒人たちのデモが全米で過熱する中、政権は国内の火消しと支持率の維持に奔走していた。だが、私が戦略室で国内の世論調査のデータと睨み合っていたまさにその時、地球の裏側から、我々の足元をすくう最悪の映像が飛び込んできた。


南ベトナムだ。


6月、腐敗した南ベトナムのジェム政権による仏教徒弾圧に抗議し、ティック・クアン・ドックという僧侶がサイゴンの路上で自らガソリンを被り、炎に包まれながらも微動だにせず焼身自殺を遂げたのだ。


この衝撃的な映像は、アメリカ全土の新聞の第一面を飾った。


「自由と平等を掲げる我が国が、なぜあんな独裁政権に若者の命と税金を注ぎ込んでいるのか?」


国内の人権問題に敏感になっていた世論の怒りは、政権の外交的な欺瞞ダブルスタンダードを焼き尽くす炎へと変わりつつあった。このままベトナムの泥沼に付き合えば、大統領の悲願である公民権法案も議会で頓挫してしまう。


この絶体絶命の危機に、ロバート・マクナマラ国防長官は、ひとつの「完璧な方程式」を導き出した。


彼は冷血漢ではない。先のキューバ危機において、核戦争の瀬戸際を「計算された理性」で回避し、世界を救った大統領の最も優秀な頭脳だ。

だが、彼の経歴そのものが、すでに一つの時代を象徴していた。


ハーバード・ビジネススクールで教壇に立った若き秀才。

戦時には陸軍航空軍へ入り、統計管理の専門家として、爆撃作戦を「数字」で支える側に立った男。

その世界の上には、東京を焼いた空爆司令官カーチス・ルメイのような、現場の空気と炎の匂いを知る将軍たちがいた。

戦後、マクナマラはフォードへ移り、膨大なデータと管理手法で巨大企業を建て直し、ついにはフォード初の非一族出身社長にまで登り詰めた。

そして1961年、四十四歳の若さで国防長官に抜擢されたのである。


彼にとって、戦争も政治も本質的には同じだった。

正しい数字を集め、正しいシグナルを与え、システム全体を合理的に動かせば、最適解は必ず導き出せる。

少なくとも、彼はそう信じていた。


※※※※※※※※※※


国防総省ペンタゴンの会議室。マクナマラは、居並ぶ将軍たちを前に、理然とした声で語りかけた。


「1965年末までに任務を完了し、年内に1000人の軍事顧問団をベトナムから撤退させる。そういう方針を公式に決定しました。」


空軍参謀総長のカーチス・ルメイは、葉巻を灰皿に押しつけるより早く、上体を乗り出した。


ルメイは、背広組のように椅子に深く沈んで議論する男ではない。

第二次大戦で爆撃部隊を率い、現場で航空戦の規律と破壊を叩き込んできた、攻勢本能むき出しの将軍だった。

自分の目で見て、自分の声で押し切る。そういう時代の軍人である。


「正気か、長官。今こちらが手を引く素振りを見せれば、南ベトナムはあっという間に共産主義に飲み込まれるぞ!」


「将軍、これは撤退ではありません。緻密に計算された政治的シグナルです。」


マクナマラは、自らの描いた理想的な戦略を説いた。


「国内の有権者には『我々は平和に向かっている』という数字を見せ、同時にジェム政権には『腐敗を改めないと本当に手を引くぞ』という正確なメッセージを送る。人間は合理的に判断します。我々が正しい圧力をかければ、ジェム政権は自浄作用を働かせる。血を流さずに泥沼化を防ぐ、これが最善の最適解です。」


ルメイの顔が歪んだ。


「戦場はあんたの机の上の計算式じゃない!」


怒号が会議室に叩きつけられる。


「人間がいつも合理的に動くなら、戦争など起きていない! 現地の軍部がその『シグナル』とやらをどう受け取るか、数字しか見ない背広組のあんたには分かっていない! 兵士の命は、フォードの生産台数とは違うんだ!」


その言葉には、単なる政策論争以上の棘があった。

ルメイにとってマクナマラは、かつて同じ戦争を別の場所から見ていた男だった。

片や火の中で航空戦を指揮した将軍。片や、その火を統計表へ変換していた管理官。

同じ空を見上げていたはずなのに、二人は最初から違う戦争を見ていたのである。


だが、マクナマラの理知的で完璧な戦略構想は、大統領の承認を得た。

ワシントンの温室で作られたこの「エリートたちの賢すぎる計算」は、やがてベトナムのジャングルで、まったく別の血生臭い意味へと翻訳されることになる。


マクナマラのシグナルが、クーデターの火そのものを生んだわけではない。

火はすでに、仏教危機とジェム政権の腐敗の中で燃え始めていた。

だが彼は、その燃え始めた火を理性で制御できると信じた。

国内向けには「平和への出口」、ジェム政権には「改革しなければ切り捨てる」という二重のメッセージ――その冷たい計算は、現地の南ベトナム軍部にとっては『アメリカがジェムを見捨てるサイン(クーデターの青信号)』として読まれてしまったのだ。


ワシントン流の理性は、炎を消すはずだった。

だが実際には、それはすでに燃え始めていたサイゴンの火をより強く燃えあがらせる酸素を送り込む風となってしまった。

マクナマラ国防長官長官の経歴もすごいですね。フォードの社長で政府の要人。去年のイーロン・マスクのような感じですね。

ルメイも、多くの日本本土爆撃参加しながら日本で勲一等の勲章を受け取っている人物。

彼らは引き裂かれた星条旗編の後編にも登場します。


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