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72,ルビコンを越えた

引き裂かれる星条旗編。


本編はメアリーの目線です。


前半のテーマはケネディを暗殺したのは――。

1963年6月11日。

蒸し暑いワシントンの空気が、さらに何倍にも重く感じられる日だった。

あの日、大統領はついに後戻りのできない「ルビコン川」を渡った。


発端は春に起きた、アラバマ州バーミングハムでの黒人デモに対する凄惨な弾圧映像だった。全米の怒りが沸点に達する中、極右のジョージ・ウォレス州知事が、アラバマ大学への黒人学生の入学を実力で阻止しようと正門に立ち塞がったのだ。

このあからさまな国家への反逆に対し、ケネディ大統領はついに連邦軍(州兵)を動かし、力ずくで知事を排除した。あの「見えない境界線」を、連邦政府の暴力によって明確に破壊した瞬間だった。


※※※※※※※※※※


その夜、大統領は全米に向けたテレビ演説で、力強くこう宣言した。


「これは単なる法律の問題ではない。この国が建国された根本に関わる、道徳的危機である。」


この演説により、北部のリベラル層は熱狂し、来年の大統領選挙での勝利は事実上「確定的」なものとなった。大統領自身も、自らの決断がもたらした熱狂を前に安堵の表情を見せていた。


だが、記録係として数字の動きを見つめる私の背筋は、凍りついていた。

数日後に出た世論調査のレポート。南部での支持率を示すグラフは、まるで断崖絶壁から突き落とされたように垂直に大暴落していたのだ。大統領は「北部の票だけで勝てる」と高を括っているかもしれないが、それでは国が割れる。南部を沈黙させるだけの「圧倒的な大勝利」は、むしろ遠のいてしまったのだ。


※※※※※※※※※※


この「国が割れる」という見えない恐怖と歪みを、ホワイトハウスの中で誰よりも骨の髄まで感じ取り、焦り狂っている男がいた。

リンドン・B・ジョンソン副大統領だ。


南部の象徴であるテキサスを絶対的な地盤とする彼は、公民権運動に対する保守派たちの「沈黙の底にある狂気」を、肌感覚で知っていた。ケネディの演説以降、南部の白人たちは表面上は静かだったが、その地下水脈では不気味で暴力的な反発が急速に膨れ上がっている。


「大統領は分かっていない。北部だけの勝利で満足し、南部を捨てれば、アメリカは再び完全に分裂するぞ。」


ジョンソンは自身の執務室で、分厚い拳でデスクを叩きながら低く唸った。

彼は決して、大統領の暗殺など企ててはいなかった。民主党という巨大な船の未来――すなわち「次の次の選挙(自身の時代)」を見据える彼は、このまま南部が離反して国が割れることを誰よりも恐れていたのだ。


「私の地盤であるテキサスを、絶対に落とすわけにはいかない。南部の保守派の心がへし折れるほどの、圧倒的な大勝利が必要なんだ。」


ジョンソンは、焦燥に駆られた目で地図を睨みつけた。

国を一つに繋ぎ止め、民主党の覇権を未来永劫のものにするためには、大統領を無理やりにでも南部に連れ出し、保守派の眼前で「力」を見せつけるしかない。


「私がテキサスをまとめ上げ、大統領を圧倒的勝利の『神輿』に仕立て上げてみせる。そのためには大統領を、私のホーム(ダラス)へ引きずり出さねばならない。」


それは、自身の政治生命を守り、分断されたアメリカを一つに縫い合わせようとする、彼なりの強烈な「愛国心と生存本能」だった。

彼はその焦りゆえに、南部の怒りを鎮めるための「テキサス大遊説」を、大統領に執拗に要求し始める。それが、後に悲劇の舞台を完璧に整えることになるとも知らずに。


※※※※※※※※※※


だが、冷房の効いた西翼ウェストウィングの静寂の中にいた私には、壁の向こう側で獣のように息を潜める副大統領の焦燥など、知る由もなかった。

私の意識は、ホワイトハウスの分厚いガラス窓の向こう側——遥か遠くのアスファルトを震わせて這い上がってくる、低く重い「歴史の地鳴り」にすっかり魅了されていたのだ。


バーミングハムの弾圧の炎と、大統領の演説。この二つの出来事が決定的な起爆剤となり、全米の黒人たちが「首都ワシントンへの大行進」を決意した。

南部の激戦区から、北部のスラムから、何万人もの人々を乗せた長距離バスや特別列車が、一斉にエンジンを掛け始めたのだ。


無数のタイヤが大地を蹴る重低音が、全米のあらゆる場所から、このワシントンD.C.という一点に向けて日々近づいてきている。

私はその巨大なうねりを、「テレビの魔法で国を一つにする最高のショー」に仕立て上げようと躍起になっていた。


だが私は気づいていなかった。

ワシントンへ向かう「光の車列」が近づけば近づくほど、それに焦ったジョンソンが用意する「ダラスへの招待状」が、大統領の逃げ道を確実に塞いでいくという残酷な因果律に。

黒人への公民権運動が高まります。

なぜケネディは、公民権運動の中心のアメリカ南部州テキサス・ダレスでパレードしたのか――。

その背景が語られます。


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