表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
終末時計が告げる刻~キューバ危機~
70/102

69,【幕間・キューバ危機とその後】30年目の真実

30年後にアメリカが知った事実。


【1992年1月/キューバ・ハバナ 『キューバ危機30周年記念会議』】


冷戦が終結し、ソビエト連邦が崩壊した翌年のことである。

あの「13日間」からちょうど30年の節目に、キューバの首都ハバナで、かつての敵と味方が一堂に会する歴史的な国際カンファレンスが開かれた。


拍手は柔らかい。握手は固い。

――だが、円卓の中心にあるのは「昔話」ではなく、まだ生々しい傷跡だった。


円卓を囲んだのは、かつて世界の命運を懸けて殺し合い寸前までいった当事者たちだ。


アメリカからは、ケネディ政権の右腕で最後まで強権派を押さえ込んだロバート・マクナマラ元国防長官。

旧ソ連からは当時の現地軍司令官、アナトリー・グリブコフ将軍。

そしてキューバからは、最高指導者フィデル・カストロ。


和やかな回顧ムードの中、マクナマラはアメリカ政府の「公式見解」を誇らしげに語った。


「あの日(10月24日)、我々が海上でソ連船を引き返させたことで、核兵器の持ち込みを水際で防ぐことができた。我々の知略が、世界を救ったのです。」


マクナマラはそこで一度言葉を切り、円卓を見回した。

それは自慢ではなく、確認だった。――あの時、自分は間違っていなかったのだと。


「……我々は当時、『キューバに核はない』――少なくとも“まだ使えない”と信じていた。

その前提の上でさえ、国防省のタカ派の意見を採用し島を攻め落とせば、勝っても負けても、西側の戦局は拡大してしまう。ベルリンか、トルコか、どこかで必ず火が上がる。

――それだけは、止めなくてはいけなかった。」


重い沈黙。

勝利を讃える空気ではない。だが、誰も茶化せない重さがあった。


その沈黙を、旧ソ連側のアナトリー・グリブコフ将軍が、事も無げに割った。


『マクナマラ氏。それは完全な誤解だ。』


マクナマラの顔から、血の気が引いた。


『あなた方が海上で止めたのは、“最後に目に見えたもの”に過ぎない。

あの時点で、キューバのジャングルにはすでに、上陸部隊を迎撃するための150発もの戦術核弾頭が配備を完了していた。

もしあなた方が空爆と上陸作戦を決行していたら、現場の権限でためらうことなく米軍へ核を撃ち込んでいた。』


議場は、水を打ったように静まり返った。

世界最強のインテリジェンスを誇っていたはずのアメリカの中枢は、相手がすでに引き金に指をかけていたことに全く気付かず、「空っぽの地雷原」のど真ん中で安堵のタップダンスを踊っていたのだ。


事実を暴露されたカストロは、


「やれやれ、言われちゃったよ」


とでも言うように、少し肩をすくめて苦笑いを見せた。


30年越しの恐怖に顔面を蒼白にしたマクナマラは、震える声で尋ねた。


「ば、馬鹿な……。ではなぜ、あなた方は危機が去ったあと、我々にバレていなかったその戦術核まで、わざわざ本国に撤去したのだ?」


グリブコフ将軍は、隣に座るカストロをちらりと見て、深くため息をついた。


『いや……あの時のカストロ議長の態度が、あまりにも悪く――いや、愛国的でね。

我々はひどく不安になったのだよ。核を残しておいたら、この怒り狂ったキューバ人たちが、我々の言うことすら聞かずに勝手に撃ちかねない、とね。』


その言葉に、カストロは呆れたように口を挟んだ。


『おいおい、我々にだって言い分はあるさ。

あんたたち大国は、我々の頭越しに「トルコのミサイル撤去」という裏取引をやっていただろう。

我々は完全に蚊帳の外で、ただの取引材料チップにされたんだからな。』


マクナマラは混乱した頭を抱え、カストロに向き直った。


「そこまで怒っていたなら、なぜあなた方はその核の存在を世界に誇示しなかった? なぜ、その引き金を引いて我々を脅さなかったんだ?」


カストロは当時を思い出すように目を伏せ、静かに、だが誇り高く答えた。


『我が国には、核弾頭よりも強い「人民の愛国心」という盾があったからだ。

それに……不思議なものだがね。極限まで敵対していながらも、私はアメリカが、いやケネディが、最後には侵攻を止めるという「正しい政治的判断」を下すだろうという、奇妙な信頼感を持っていたんだよ。』


かつての敵国の大統領に向けられた、最大の賛辞だった。

マクナマラは言葉を失い、ただただ苦笑いするしかなかった。


議場の空気が、しん、と静まり返る。

その厳粛な沈黙を破るように、カストロはふっと口角を上げ、かつての敵たちに向けてニヤリと笑った。


『もっとも……モスクワの友人たちを震え上がらせるほど「私の態度が悪かった」ことについては、否定しない。

あの頃の私は若く、いささか調子に乗っていたからね。』


張り詰めていた議場に、今度こそ大きな、そして温かい笑い声がドッと巻き起こった。


世の中とは、そして歴史とは、かくも皮肉なものである。

大国のエリートたちが論理と計算で世界を救ったと思い込んでいたその裏で、人類の破滅を土壇場で食い止めたのは、大国のコントロールを一切受け付けない「小国の若き指導者の、狂気じみた愛国心」に対する、大国側の恐怖だったのだ。


ワシントンのエリートたちが未知の船に怯え、海上の勝利に安堵して眠りについた夜。

彼らの足元では、すでに破滅のカウントダウンが静かに作動しており――それを止めたのは、彼らの知略ではなく、名もなきゲリラ戦士たちの誇り高き怒りだったのである。

マクナマラ国防省長官の判断が皮肉にも正解だとわかるのは30年後。

マクナマラの取った海上閉鎖は彼が考えた以上に正解だったことが明らかになります。

この話を知ったあとキューバ危機を描いた映画「13Days」を見るとまた違った緊張感がでてきます。


キューバ「ゲバラとカストロ」のお話に戻る前にアメリカのその後を次回以降の新章では描きます。


よろしければ、ブックマーク/感想/★で応援してもらえると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ