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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
終末時計が告げる刻~キューバ危機~
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68,【幕間・キューバ危機その後①】モスクワにて

キューバ危機の隠された手札が明かされる逸話を2話に渡って描きます。

【1963年春(4月〜5月)/ソビエト連邦・モスクワ クレムリン】


あの「13日間」から、半年が過ぎた春のことだった。

フィデル・カストロは、米国に一泡ふかせた男という、国賓としてソビエト連邦に招かれていた。


それは、世界の歴史上でも類を見ないほど異常で、豪華絢爛な「接待旅行ビクトリー・ツアー」だった。


キューバ危機の結末(頭越しの妥協)に激怒していたカストロの機嫌を直すため、ニキータ・フルシチョフ書記長は彼を40日間にもわたってソ連中を連れ回した。赤の広場での大パレード、海軍艦隊の視察、シベリアでの熊狩り、そして連日のように開かれるキャビアとウォッカの大宴会。


だが、大国がどれほど金と権力を使って赤絨毯あかじゅうたんを敷こうとも、カストロの腹の底にある「冷え切った疑念」が晴れることはなかった。


ツアーの終盤。クレムリン宮殿の豪華な一室で、フルシチョフとカストロは向かい合って座っていた。


「いやあ、フィデル同志! 今回の視察旅行は楽しんでもらえたかな! あの時の我が国の外交的勝利は素晴らしいものだった。我々はアメリカの帝国主義者どもから、見事に君たちの島を守り抜いたのだからな!」


フルシチョフは上機嫌でウォッカのグラスを揺らし、当時の内部文書を誇らしげに読み上げ始めた。

カストロは適当な相槌を打ちながら、それを聞き流していた。だが――文書の途中の「ある一文」が読み上げられた瞬間、カストロの耳がピクリと反応した。


「……待て。フルシチョフ書記長。」


カストロはウォッカのグラスを置き、目を鋭く細めた。


「悪いが、今読み上げた『トルコ』に関する部分を、もう一度読んでくれないか?」


「ん? ああ、これか。」


フルシチョフは、自分が失言(うっかり秘密の裏取引を暴露してしまったこと)に全く気付かないまま、上機嫌でその文書を読み直した。


『……ケネディ大統領との合意に基づき、アメリカは我が国の喉元であるトルコからジュピター・ミサイルを撤去した。これは、我が国がキューバのミサイルを撤去したことへの交換条件として成立したものであり――』


「…………。」


カストロは、言葉を失った。

怒りすら湧かなかった。ただ、背筋に冷たい氷柱を差し込まれたような、圧倒的な虚無感が全身を貫いた。


(交換の、証拠チップ……?)


大国ソ連は、「キューバをアメリカから守るため」に核を配備したのではなかった。

最初から、自分たちの喉元トルコにあるアメリカのミサイルを退かせるための「取引材料」として、キューバにミサイルを置いたのだ。


もし本当に、ソ連が本気でキューバを防衛する気があったのなら、ミサイル撤去の交換条件としてアメリカに要求すべきだったのは、「キューバに対する経済封鎖(禁輸措置)の解除」であり、「亡命者たちによる海賊まがいのテロ攻撃の停止」であり、「グアンタナモ米軍基地の返還」であったはずだ。


だが、モスクワはそれを一切しなかった。

彼らが最優先で要求したのは、キューバの防衛とは何の関係もない、「自国の喉元にあるトルコのミサイル撤退」だったのだ。この40日間に及ぶ豪華なパレードも、熊狩りも、すべては「お前はただの捨て駒だった」という残酷な真実を隠すための、巨大な茶番劇に過ぎなかった。


「なるほど……よく分かったよ、同志。」


カストロは笑った。

笑い方だけは完璧だった。

勝利の宴で、負けた顔を見せるのは三流だ。


だが、心の奥で、冷たい誓いが静かに固まっていくのを感じた。


半年前にハバナの塹壕で、ゲバラが吐き捨てるように言った言葉が、痛烈に脳裏に蘇る。


『モスクワもワシントンも、結局は同じ穴の狢だ。大国にとって、我々は盤上の駒に過ぎない』


――ゲバラ、お前の言う通りだったよ。

俺たちは、最初から最後まで、大国のポーカーテーブルの上のチップとして利用されていただけだったのだ。


大国の指導者が無邪気に笑うクレムリンの密室で、若きキューバの指導者は、二度と誰にも自国の命運を握らせないと、冷たく、そして固く心に誓った。

次回30年を経てアメリカが知った真実を描きます。


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