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ゲバラとカストロ ~革命は二人で始まり、一人で終わる~  作者: 相馬ゆう
終末時計が告げる刻~キューバ危機~
66/102

65,暗黒の土曜日

キューバ危機は、主にアメリカパートではメアリー(大統領秘書)のメモベースで実際の出来事を、キューバパートでそれを受けたキューバの反応を描きます。


キューバにすでに核兵器が持ち込まれていたことは1992年に明らかになります。

今回はマクナマラ国防長官とルメイ空軍参謀長との対立の経緯から描きます。

時を遡り、1945年、日米戦争末期


日本の都市を焦土と化した戦略爆撃の裏側で、二人の男は、都市空襲計画をたてていた。二人の意見はいつも水と油であった。


「敵の頭上に圧倒的な火の雨を降らせ、物理と恐怖でねじ伏せる」


という、目的のためなら、暴力と破壊そのものを肯定する野性の爆撃司令官、カーチス・ルメイ将軍。


対して、ルメイの部下で


「空爆は必要だ。しかし、無用な犠牲を最小限に抑えるだけで充分に目標が達成できる。無用な破壊を生まないのが、勝利が決定的になっている我々に課された使命だ。」


という勝利後を見据え、論理的な信念を抱えながら、冷徹なデータと確率論で戦場を管理しようと苦悩した若き統計将校、ロバート・マクナマラ。


「正義を背負った猛獣」と「冷徹な合理主義者」


二人は当時から完全に水と油であり、その戦略思想は幾度となく激しく衝突していた。

ただ「この戦争を終わらせる」という目的においてのみ、歪に共存していた。


あれから17年の歳月が流れた1962年のワシントンD.C.で、二人の立場は逆転していた。

マクナマラはケネディ政権の国防長官として、人類に対する責任として、数千万人の無意味な死(核戦争)を阻止すべく、大統領を支える「理性の防波堤」となっていた。


一方、空軍参謀長に登り詰めたルメイは、かつてと変わらぬ圧倒的な武力ですべてを解決しようとする「開戦論なタカ派」の筆頭として、かつての部下であるマクナマラと激しく衝突を繰り返していた。


この血塗られた因縁と、決して相容れない思想を持つ二人が、人類の命運を懸けた最終局面で、ついに決定的な激突を迎える。


※※※※※※※※※※


【1962年10月27日/ワシントンD.C. ホワイトハウス】


[メアリーの手帳:第12日目の詳細録]


【事象1:最初の血と軍部の暴走】

キューバ上空を偵察飛行していた我が軍のU-2偵察機が、ソ連製の地対空ミサイル(SAM)によって撃墜された。

米国パイロットのルドルフ・アンダーソン少佐は死亡。ついに、この危機における「最初の血」が流された。


閣議室(EXCOMM)の空気は、数日前の安堵から一転し、血の匂いに飢えた狂気へと完全に染まりきっていた。


「奴らが先に引き金を引いた! これは明確なソ連の戦争行為だ!」


タカ派の筆頭であるルメイ空軍参謀長が、机を叩き割らんばかりの勢いで吠えた。かつて東京を火の海にした男は、極めて理路整然と、かつ凶暴な説得力を持って大統領に迫る。


「CIAの最新の分析によれば、キューバには核弾頭はまだもちこまれてません。

大統領! これ以上待つ必要はない。

報復の全面爆撃を行い、明日の朝には海兵隊を上陸させるべきです!

今ならあの小島など、我々の損害ゼロで、1日で制圧できるのです!」


その圧倒的な熱狂の前に、ただ一人立ちはだかったのは、ロバート・マクナマラ国防長官だった。


「その先を考えているのか、カーチス参謀長!

仮にあなたの言う通り、我々が無傷でキューバを制圧できたとしてもだ!」


マクナマラ国防長官は血走った目で、元上官を怒鳴りつけた。


「我々が空爆でソ連兵の血を流せば、フルシチョフは面子を保つために必ず別の場所――西ベルリンやトルコで報復攻撃に出る。ベルリンにソ連の戦車が雪崩れ込めば、自動的にNATOとワルシャワ条約機構の全面的な核戦争に発展する。

あなたは一つの島と引き換えに、何千万人という罪なき命を第三次世界大戦の火の海に沈める気か!」


ルメイは忌々しそうに葉巻を噛み千切り、かつての部下を鼻で嗤った。


「昔から机の上で数字ばかり並べるチキン(臆病者)だとは思っていたが……軍服を脱いで背広になったら、さらに骨の髄まで弱腰になったようだな。」


マクナマラはギリッと奥歯を噛み締めた。彼が恐れているのは自らの保身ではない。ボタン一つで世界が焼き払われる「無用な死」そのものだ。


「局地的な勝利」しか見えていない主戦派の軍部に対し、マクナマラは「世界規模での無用な犠牲」を何としても防ぐため、必死に反論していた。

だが、部屋中の将軍たちはルメイの凶暴な論理に強く同調し、明日の朝、海兵隊をあの島へ送り込む気でいる。


【事象2:モスクワからの追加条件】


軍部が沸騰し、今にも爆撃機が飛び立とうとする最中、モスクワのフルシチョフ書記長から新たな書簡が届いた。


昨日までの「キューバに侵攻しないならミサイルを撤去する」という軟化姿勢から一転し、「キューバのミサイル撤去の交換条件として、トルコに配備されているアメリカのジュピター・ミサイルも撤去せよ」という、強気な追加条件を突きつけてきたのだ。

偵察機撃墜による「物理的な挑発」と、突然の「外交的条件の吊り上げ」。大統領は極めて困難な決断を迫られることとなった。


【まとめ】

大統領は青ざめた顔で軍部の「局地戦への暴走」をギリギリで押さえ込み、「空爆は1日だけ待て」と命じた。

そして裏口から弟のロバートを走らせ、ソ連大使に対し、突きつけられた追加条件である「トルコのミサイル撤去」を極秘裏に呑むという、最後の大博打(裏取引)に打って出た。


だが、軍部の忍耐は明日で切れる。


私はタイプライターを打つ手を止め、ガタガタと震える膝を必死に押さえつけていた。

マクナマラ国防長官は「ベルリン――そして世界への飛び火」を恐れている。

だが、本当の恐怖はそこではないのだ。

あの島に取り残された「用意周到な男たち」の存在。


そしてソ連がだった数千の兵力しかないのにもう一つの大国アメリカの偵察機を撃ち落とすような無謀な真似をするはずがない。


彼らとソ連は絶対に、写真には写らない『見えない引き金』をすでに隠し持っていると可能性が消せない。


大統領の博打が外れれば、明日の朝、我々は目隠しをしたまま「空っぽだと思い込んでいる地雷原」へと全軍を突撃させることになる。

ベルリンに火が飛ぶより先に、キューバの浜辺で未知の暴発があるのでは――


その仮説が正しいのならアメリカの若者たちは一瞬で消し飛び、そして世界が終わる。


破滅へのタイマーは、残り数時間を切った。


※※※※※※※※※※


【同日/キューバ・ハバナ郊外 沿岸防衛陣地】


ドゴォォォォン……!!


真っ青なカリブの空を、黒煙を吹き出しながらアメリカ軍の偵察機が墜落していく。


ジャングルの奥深くで火柱が上がった瞬間、周囲の塹壕ざんごうに潜んでいたキューバ軍の若い兵士たちから

、割れんばかりの歓声が上がった。

「やったぞ!ソ連軍が帝国主義者の鳥を叩き落としてやった!」


長年、アメリカの圧倒的な暴力に見下されてきた彼らにとって、それは歓喜の瞬間だった。

だが、最前線の塹壕に立つフィデル・カストロの顔に、笑みはなかった。そこにあったのは、計算を狂わされた苛立ちと焦りだった。


「……誰の命令だ。モスクワか? 現地の判断か?

いずれにせよ、最悪のタイミングで“血”が流れた。」


カストロは、黒煙の上がる空を忌々しそうに見上げた。


「まずいな――これでワシントンに、最も最悪なタイミングで全面攻撃の『大義名分』を与えてしまったぞ。」


だが、数秒の沈黙の後、彼の瞳から焦燥感がスッと消え去り、静かで重たい決意の光が宿った。


「……いや、起きてしまったことは仕方がない。これで後戻りは完全に不可能になった。

我々は、もともとルビコン川を渡っていたのだ。」


「それなら素晴らしい。ソ連の連中にしては、最高に気の利いた『暴走』じゃないか。」


その横で、エルネスト・ゲバラは愛用の自動小銃の弾倉を叩き込みながら、隠しきれない興奮に口角を吊り上げた。


「ワシントンの連中は『キューバにはまだ核は持ち込まれてないから安全だ』とタカを括っているはずだ。

アメリカは自軍の血が流されたとなれば、軍部は完全に沸騰する。

明日の朝には、空を埋め尽くすほどの爆撃機と、海を黒く染めるほどの上陸部隊が、喜々としてこの海岸に押し寄せてくるだろう。

偵察程度で暴発するソ連だ。引き金は引かれる。引かないとしても俺たちが、引かざるをえなくすればいい。」


死神のように冷たく、しかし熱狂を帯びたゲバラの声に、カストロもまた泥にまみれた手で新しい葉巻を取り出した。ゲバラが黙ってマッチを擦り、火をつける。


基地のソ連軍を援護する形で10万以上のキューバ軍が布陣してる。ソ連軍が逃げだす隙間は0である。


――核はソ連のものだ。だが、ここはキューバだ――


「ゲバラ。明日の朝、ワシントンの間抜けな海兵隊どもが、安全な遠足のつもりでこの海岸に上陸してきたら、どうする?」


カストロの問いに、ゲバラは薄く、そして極めて残酷な笑みを浮かべた。


「ギリギリまで引きつけて、すべてを撃ち込む。あの巨大な艦隊ごと、この美しいカリブの海を核の炎で沸騰させてやる。」


「その結果、数時間後には報復として、我々の祖国も核の雨を浴びて完全に消滅する。……この島は、文字通り灰燼かいじんに帰すぞ。」


「構わないさ。」


ゲバラは塹壕から身を乗り出し、真っ暗になり始めた海を見据えた。


「奴隷として鎖に繋がれて生きるくらいなら、俺は自由な人間として、帝国主義者たちを道連れにして灰になる道を選ぶ。……我々の骨の灰は、風に乗って世界中に散らばり、新たな革命の種になるだろう。」


「ふっ……違いない。最高にイカれた、美しい葬式になりそうだ。」


カストロは葉巻をくわえたまま、低く獰猛な声で笑った。


二つの大国の計算違いと傲慢が生んだ、最悪のバグ。


誰にもコントロールできなくなった小国の若き指導者たちは、すでに自分たちの命すらチップとしてテーブルの中央に放り投げ、究極の「死のゲーム」の到来を待っていた。


「さあ、来い、アメリカ(ヤンキー)。明日の朝、地獄の蓋を開けてやろう。」


星空の下、波音だけが響く塹壕の中で、二人の革命家は自分たちのすぐ後ろにある「破滅の引き金」を愛おしそうに撫でながら、世界が最後の日を迎える夜明けを静かに待っていた。

キューバに核兵器がすでに持ち込まれていることは、1992年に判明した出来事で、キューバとソ連のみが知りアメリカはまだ知らない状態です。

世界をかけて目隠しでポーカーをする3国の思惑このあとどうなるのでしょうか?


マクナマラ国防長官とルメイ空軍参謀長の対立は映画『13Days』でも描かれています。

映画では、これは戦いじゃなく会話メッセージのやりとりをしてる。とルメイに言うマクナマラの台詞が有名です。


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